第9話 ノイズ
☆田所勇気サイド☆
アイツからメッセージが届いたが。
正直に言うと実感もそうだが湧かない。
家庭の事情はそれなりに知っているしそして家族の事も知っている。
兄の事を高校で相談されたのも知っている。
だけどそれで例えば浮気して良いとは思わない、思えないしそもそも浮気する前に俺に相談してほしかった。
どう考えてもこれはアイツにも非があると思える。
アイツが浮気したのはあくまで家族を搾取しまくった兄のせいでもあるし.....複雑だから何も言えないのだが。
「.....」
俺は考えながら自宅に帰って来る。
そして、ただいま、と言ってから足元を見ると。
何故かローファーがあった。
女子の物だ。
うん?誰か来ているのか?、と思っていると制服にエプロンを着けた姉ちゃんがやって来た。
「お帰り。クッキー作ったんだけど」
「.....ああ。姉ちゃん。誰か来ているのか?」
「は?アンタの嫁よ。来ているの」
「.....はい?」
俺は愕然としながらリビングに行くと。
そこに制服に何かを羽織っている美奈保が.....。
何をしている、と思いながら美奈保を見ていると。
美奈保は俺に顔を向けてくる。
「.....おかえり」
「何をしているんだお前は」
「うん。.....どうしても勇気に会いたかったから」
「.....俺に会って何をする?」
「何をするって訳でもないけど。.....実は家でちょっとした喧嘩が起こってね。出て来たんだ私」
「喧嘩?.....誰とだ?.....というか.....」
えっと。お兄ちゃん、と告白した美奈保。
そして俺は唖然とする。
それも全然違う展開だったから。
家族から搾取され続けた一家は、という展開.....というか。
こんなに早くその展開になるとは思わなかった。
「.....私は愚かだね。.....お兄ちゃんに殺人未遂の様な事までしちゃったし」
「美奈保.....」
「私はお兄ちゃんを殺しかけた。だけど殺しきれなかったけど」
「.....」
もう家に近付かないとは思うけどね、と話す美奈保。
それから俯いた。
するとそんな美奈保の頬をパチンと両方の手で挟む姉ちゃん。
両サイドから、だ。
俺は、!、と思いながら姉ちゃんを見る。
「それは仕方がないの。殺人未遂?そんなの美奈保ちゃんが危ないじゃん」
「.....お姉さん.....」
「そうだな。姉ちゃんの言う通りかもしれない。俺もそう思う」
「勇気.....」
だけど正直驚きではある。
浮気の前の行動が今に現れる。
その事が正直本当に驚きを持っている。
全てのシナリオが書き換えられている.....?
どうなっているのだ。
思っていると姉ちゃんが溜息を吐いた。
それから、よっしゃ!、とバァンと拳で掌を殴って言い出す。
俺は、?、を浮かべて姉ちゃんを見る。
「クッキー食って元気出して!先ずは紅茶でもどうかね!」
「ははは。姉ちゃんは変わらずだ」
「.....良いのかな。私なんか」
「良いんじゃねぇのか。まあ」
「.....じゃあ頂こうかな」
それから少しだけ笑みを控えめに浮かべた美奈保。
俺はその顔を見ながら考え込む。
こんなにもシナリオが変わってくるとはな、と考えてしまった。
そして俺は姉ちゃんの手伝いをする。
そうしてから取り皿を出した。
☆
許せなかったからハンマーをお兄ちゃんに向かって投げた。
その事を教えてもらいながら熱い紅茶の茶柱を見ながら美奈保を目を動かして見る。
美奈保は自嘲する様な感じで目線をずらしていた。
姉ちゃんも真剣な顔で美奈保の話を聞く。
「.....私は犯罪者ですね」
「正直それは犯罪者とは言わないね。正当防衛だと思う」
「でもそれは襲われた時です」
「家族が危険な目に遭っているのに正当防衛と言えないの?それおかしくない?」
姉ちゃんは、正直。それは兄と思えないね。もう単なる犯罪者だ。というか警察とかに行った方が良くない?、と熱い紅茶を飲みながら愚痴る。
その事には賛成だな、と思いながら姉ちゃん達を見やる。
「警察沙汰にしたくない.....っていうか母親もこんな情けないのが兄って信じたくないって言ってますし。外部に漏れるのを恐れている感じです」
「.....そうか。でも行った方が良いよ。これは犯罪だと思うしね。そう思わない?勇気」
「まあそうだな」
「.....分かった。勇気とお姉さんが言うなら警察にも行ってみます」
俺は美奈保が強く決意するその姿を見つつまた目の前の紅茶を飲み始める。
しかしまあどうしたものか。
既に紅茶は飲んでいるのでこれ以上はお腹いっぱいなのだが。
それに別件で取り敢えずは色々とお腹がいっぱいだ、とか思いながら居るとポケットの中に入っていたスマホがバイブした。
「.....?」
電話番号は非通知だった。
そんな電話は即座に切れば良かったものの。
何というか断りを入れてから廊下に行って出てしまった。
それから珍しく非通知に出てしまう。
「もしもし?」
『..........』
ノイズが数秒間走り。
そしてそのまま電話は切れた。
俺は、?、を浮かべながら番号を見る。
何だこりゃ、と思いながら。
だけどかかってきた先は知らない番号だ。
イタ電の様である。
「不気味な事をするなよ」
そんなツッコミをそのかかってきた電話にしながら室内に戻る。
姉ちゃんと美奈保が俺を見ていた。
どした?、と姉ちゃんが口にクッキーを咥えたまま聞いてくる。
俺はその言葉に肩を竦める。
それから、宣伝電話だった、とだけ告げてからそのまま椅子に座った。
何だったんだろうか、と思うが。
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