第6話 貴方へ

この一室。

つまりこの部屋は.....後悔の場所だ。

何故ならホームズと最後に話をして.....何というか。


その時の悲しげな何とも言えないホームズの顔は今でも忘れない。

俺が悪いんだと思う。

だから。


「わ、ワトソン。お茶が入った」

「ああ。ありがとうな。.....紅茶か?」

「そうだな。き、君は確か砂糖とミルク派だったよな?」

「そうだな.....うん」


知っている。

俺はホームズの事を。

だからこそ悲しみが湧き上がってくるが。

俺はそれを堪えながらホームズを柔和な感じで見る。


するとホームズは、じゃあコレクションを見せるよ、とホームズは案内してくれた。

その言葉に、サンキュー、と言いながら俺は奥まで行く。

というかまあ。

全て知っているのだけどな。


「意外だな。お前がぬいぐるみが好きなのが」

「い、意外か?.....私はぬいぐるみに癒されたいんだ」

「.....そうか」


俺はホームズの部屋に案内される。

愛、と書かれた部屋の中に入ると.....愛の香りがした。

少しだけふわっとする様な香りだ。

俺は懐かしく感じる。

と思いながらボーッとしていると。


「と、ところで.....」

「.....?.....何だ?」

「い、嫌な香りとかしないかな」

「そんな訳あるかい。良い香りだよ。お前のというか女の子の」

「そ、そうか」


掃除を頑張った甲斐があった?と言った様な。

安堵を吐くホームズ。

半分しか聞こえないのだが。

俺は、何か言ったか?、と聞くが。

ホームズは、な、何でもない!!!!!、と否定した。


「.....ごほん。それでは早速だけど」

「ああ」

「.....ぬ、ぬいぐるみを結構持っています」

「そ、そうか」

「私が好きなのはクマさんです」

「そ、そうか」


何だこのしおらしさ。

俺は赤くなりながらその姿を見る。

するとホームズは一から説明してくれた。


半分ぐらいしか記憶がなかったけど。

だけど大体俺が想像したものと合っている。

元の世界とここは同じだ。



「長ったらしくごめんよ。ぬいぐるみを説明してしまって」

「いいよ。お前の事だし」

「.....そ、そうか。.....ところでワトソン」

「何だ。ホームズ」

「.....私が。.....私が.....もしこの場所で君が好きだと言ったらどうする.....?」


ぬいぐるみを見て考えていた俺。

予想外の言葉に俺は、へ?、と顔を赤くなっているホームズに向ける。

今何つった。

予想外のセリフだぞ!!!!?

俺は赤くなりながらホームズを見る。


「.....だ、だから私は.....その」

「.....あ、ああ。うん。どうし.....」


「私は君が好き.....なんだ」


「.....!?」


ホームズは本気で恥ずかしいのか両手でスカートの裾を弄る。

俺は全身の毛穴が広がる感覚を感じる。

まさか。そんな馬鹿な!?

元の世界でこんな展開.....なかったぞ!

思いながら俺は、い、いや。その、と真っ赤で抵抗する。


「わ、私は.....君が好きだ。だけど答えは要らない。私は.....」

「聞いても良いか。ホームズ。何故俺を好きになった?」

「入学した時に助けてくれたのは君だろう。私が交通事故に遭いそうになった時に」

「そんな馬鹿な事があるか。直ぐに立ち去った。名乗ってなかったぞ」

「女子は記憶力は半端じゃないぞ。特に私はホームズなのだから」

「特権みたいに使うな。でも確かにな」


そうだな。

アイツもそうだったしな。

美奈保も.....記憶力が半端じゃなかった。

だからこそ。

思いながら俺はホームズを見る。


「.....」

「.....」


汗が一筋流れる。

時計の針の音が聞こえる。

それだけしか聞こえないけど。

一体何故、俺は告白されたんだろうか。

こんな事は元の世界ではなかった。


「.....そ、その。い、いつか返事を聞かせてほしい。ワトソン」

「助手に恋をするなんて悪い子だな。ホームズは」

「.....そうだな。私はとても悪い探偵だ」

「それを話す為に呼んだのか。ホームズ」

「.....そうだな。私は告白をする為に君を呼んだ様なものだ」


そして華やかな笑顔になるホームズ。

俺はその顔を見ながら盛大に溜息を吐く。

それから本当に相変わらずだな。お前は、とホームズの頭に手を添える。

えっと、と困惑しながらホームズはされるがままなる。


「.....」


正直。

俺はもう誰とも付き合えない気がするとは思う。

だけどこの告白を無碍にできるか?

ホームズが一生懸命に俺なんかを好きになってくれたんだ。

そして俺は美奈保に、と思う。

そう思いながら俺は目を閉じる。


「.....ホームズ。お前の気持ちへの応えまで1週間くれ」

「え?.....いや。そんな簡単に出さなくていい.....」

「ダメだ。お前の精一杯の告白。無碍にはできない」

「.....ワトソン.....」


もし。

このまま告白を断ったら。

何だかまた後悔が生まれそうな気がする。


だから色々と観察してから状況が良いのであれば、このまま、と思う。

考えながら俺はホームズを見る。

ホームズは背中に手を回して微笑みながら、待ってる、と応えてくれた。

俺はその顔に口角を上げる。

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