第3話 記憶を持つ者

☆吉田美奈保サイド☆


私は彼が大好きだと思う。

彼っていうのは田所勇気だ。

だからこそ私はアピールしているのだが。


何だか最近は彼が冷たい様な?

気のせいかどうか分からないがまあ.....幼馴染だし。

そんなに気にする事はないと思うけど。


今日は用事があるという事で私は仕方がなく部活に行く事にした。

部活は.....読書部だ。

より正確に言えば読書を嗜む部活と言える。


「やあ」

「.....あ。真」

「何だか元気が無いね。どうしたんだい?」


元部長の草下真(くさもとしん)。

女子である。

今は読書部の部長は引退しているおさげ髪の少女。

可愛い方だと思える顔立ちをしている。

私はその彼女に、実は、と打ち明けてみる。

それから、そうか、と納得した真。


「.....こういうのは根性だね。.....それからエロさだね」

「へ?」

「エロさで勝負だ。という事でビッチになったらどうかね」

「そんなメチャクチャな。無理だよ」

「ダメだねぇ。その根性じゃ奪われるよ?」


真は、やれやれ、的な感じで反応する。

私はその姿に苦笑いを浮かべながら部室に入ろうとした。

その時だった。


誰かの視線を感じて横を見る。

そこに.....銀髪の1年生が立っていた。

こちらをジッと見ている。

綺麗な子だな、って思える。


「あの。もしかして入りたいのかな。部活に」

「.....違います」

「.....?.....じゃあどんな用事かな」

「端的に言います。吉田美奈保先輩。.....勇気先輩に近づかないで下さい」

「.....はい?」


私は少しだけムッとした。

何だその言い草は、と思いながら。

貴方は勇気先輩を不幸にする。

だから近付かないで下さい、と私に歩み寄って来る。


「勇気を知っているみたいだけど。貴方誰」

「私は勇気先輩の.....後輩ですが」

「その後輩ちゃんが何でそんな事を言うの。いきなり初対面で失礼じゃない?」

「.....そうですね。.....私は貴方の未来を知っている」


み、未来?

前言撤回.....この子おかしい。

思いながら見ていると。

おいおい、と声がしてくる。

それから真がやって来た。


「君は確か廻さんだね?.....悪いけど何の用事かな。君は不思議な子って認識ではあるけど」

「私は2年後の未来を知っている。貴方じゃ勇気先輩に釣り合わない」

「.....失礼極まりないね。.....何?私が何か悪い事をするっていうの?」

「貴方は勇気先輩を悲しませる。だから離れて」


失礼だなぁ.....そんな事しないし。

思いながら私は困惑する。

すると真が、廻さん。取り敢えず.....話をしたい。良いかな、と手を差し出したが。

その手を払い除けてから廻は去って行く。

私は、???、を浮かべながら廻を見ていた。


「.....まあ気にする事はないな。不思議子ちゃんだから」

「.....まあそうだね.....」


何であんな事を言ったんだろう。

私はそんな事をしない。

絶対にしないって思える。

失礼だな本当に。


☆長富廻サイド☆


私は知っている。

2年後に勇気先輩と付き合った女が破綻する人生を。

だから私は勇気先輩が悲しむ前に。

全てを終わらせると決めた。


「.....」


朝目が覚めて。

私は記憶を持ったまま何故か2年前に返っていた。

これを私はチャンスと捉え。

今に至っている。

勇気先輩が悲しむ人生なんか死んでもゴメンだ。


そして今度こそ私は.....勇気先輩に言えなかった事を言う。

思いながら私は廊下を歩いていると。

いきなり女子に水をかけられた。

アレェ?とか言われながら。


「.....ああ。ごめんねぇ。手が滑った」

「.....」

「いやいやぁ。居るって気が付かなかったからwwwごめん」

「別に良い。気にしなくて」


だけどその次に足を引っ掛けられた。

そして水で滑って転ぶ。

それからゲラゲラ笑われた。

いじめっ子達に。


「.....」


2年前に返ってもこの人達は何も変わってない。

誰も助けてくれないのは2年前と変わらない。

みんな通行人だ。

思いながら居ると、止めないか、と光が差し込む様な怒る声がした。


「だ、誰よ」

「.....田所。いやどうでも良いけど。俺の大切な後輩なんだ。それ以上やると先生呼ぶぞ。良い加減にしろ」

「.....チッ」


そしていじめっ子は去って行く。

私は驚きながら勇気先輩を見てみる。

2年前ではあり得なかった光景だ。

そう考えながら。

すると手を伸ばしてきた勇気先輩。


「.....でも濡れる」

「.....良いから。掴め」

「.....」


私は起き上がらせてもらう。

それから、どうして、と聞くと。

勇気先輩は、偶然、とだけ答えながら笑みを浮かべる。

だけど何か違和感がある。


「.....勇気先輩」

「?」

「.....いや。何でもないです」


そして私は濡れた手を拭きながら勇気先輩に立ち上がらせてもらい。

そのまま保健室でワケを話して制服を借りてから戻った。

しかしそれは良いとして。

まさか、と思うが。

同じ様に記憶を持って過去に戻っている?

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