百合帝国と純粋神聖クエーサー帝国・接触ーその3

 開いたハッチの中から純粋神聖クエーサー帝国の臨検隊が入ってくる。

飛行船の乗員の3名はハッチを遠巻きにしてそれを待ち構えていた。

ハッチには近づかない。

この飛行船は今、浮いているのだ。

ハッチから落ちでもしたら死ぬのであり、誰にとっても怖いのである。

中の3名から見れば、なんだかわからない手段でどうやってか空中を自在に移動しているクエーサー帝国臨検隊とは異なるのであり、百合帝国の人間には、生身で自在に空を飛ぶような真似はできないのである。


 精神感応能力を持つガーが彼らに友好のメッセージを、強く送る。

言葉にすればこうなる。

『初めまして、私たちは友好の使節です!』

臨検隊のメンバーは皆、心に意思を直接送られる、魔法とも異なる未知の感覚に戸惑ったが、敵対する者ではなく丁重に扱った方が良い相手であるとは認識した。

脳裏に言葉を並べる。

『我々は純粋神聖クエーサー帝国空海軍沿岸警備隊であります。貴方方の所属と目的を述べていただきたい』

『私たちは百合帝国の使節です』

『私たちの目的は、この先にある都市に友好のメッセージを伝えること、どのような文明か調査すること、百合帝国と貴国の間での国交樹立の交渉です』

これが本当なら彼らはかなりの重要人物たちである。

臨検隊の一人が、艇長の判断を仰ぎに飛行警備艇へと戻っていった。


 (魔力を探知できないあの飛行船は異質だ。所属と目的には信憑性がある…。これは現場の一軍人の権限と責任を超えているな。上に急ぎ報告せねば。臨検隊には失礼のないよう指示しておかねば。いや、この場の最上位階級の軍人は自分だ。自分が赴くべきだろう)

艇長は通信士に通信内容を指示した後、飛行装備を身につけ謎の飛行船に自ら赴いた。


 (報告では内部の人員は3名と聞いたが、1名足りないな。こちらの部下も一人足りない)

『貴方は?』

ガーは隣室で、臨検隊の一人と純粋神聖クエーサー帝国の言語をその精神感応能力で解析中である。

そして、リーリスとキャロールは精神感応能力に覚醒しては居なかった。

脳内コンピューターに指示し、ラウンジのスクリーンに砂時計の画像を映し出し、指し示す。

しばし待て、というメッセージだ。

どうやら伝わったことをリーリストキャロールは思い、艇長にも座るようにジェスチャーで伝える。

彼らは言語の解析が終わるまで待った。


 「小官はあの飛行警備艇の艇長で、最上位の責任者であります。貴方方の重要性から考えて、最上位の者がお相手するべきかと愚考いたしました次第であります。貴方方の船をどうするべきか、ただいま上層部に問い合わせ中であります」

「遠隔通信手段をお持ちなのですね…、差し支えなければどのような物かお聞きしても?」

とリーリス。

「あの艇の通信機は、魔法を用いた共鳴通信であります」

魔法が超光速航行手段になりうると考えている彼女らは、魔法を用いた共鳴通信というものが具体的にどのようなものかはわからなかったが、それが超光速通信である可能性を考え胸を高鳴らせた。

手に入るものなら是非ともその通信機の現物を手に入れて調べ尽くしたいと彼女らは思うが、魔力を感知したり操ったりする能力のない者にそれはできないだろうとも思っていた。


 飛行警備艇と飛行船の間の連絡のための人員がハッチより入ってくる。

「司令部より命令が降りました。この謎の飛行船をクエイスシャイタン海空軍基地に誘導し着陸させよとのことです」

艇長はその旨を百合帝国の三名に伝え、飛行警備艇と飛行船は基地へと向かうくだりとなった。

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