嗚呼!絢爛なるかな! 蒸気と魔法の装甲帝都ーその2

 魔力充填という仕事は簡単である。


必要な技能は『魔力石充填』の魔法が使えることだけであり、魔力石充填の魔法は誰でも一日の四分の一ほどの時間の講習で習得できる。


その講習は国営の職業斡旋所で無料で受けることができるのである。


クリュは自分の目の前に、骸骨模型により運ばれる大型魔力石に魔力石充填の魔法で、自身の魔力を注ぎ込み続ける。


魔力が枯渇したら、椅子にぐったりともたれ掛けながら回復するまで休息という簡単なルーチンだ。


魔力を限界まで充填し終えた魔力石は骸骨模型が運び去り、魔力が空の魔力石が新たに目の前に置かれる。


給料は時給ではなく、充填した魔力量による完全歩合制である。


クリュは一日の仕事を終え、受け取った給金を懐に繁華街へのバスに乗った。


魔力石から魔力を供給され、加熱の魔法が水を沸騰させ蒸気機関を駆動させる。


魔法で直接物体を動かすよりも加熱の魔法で蒸気機関を駆動させた方がはるかに大きな出力を出せるのだ。


この装甲帝都ではあらゆるものが魔法を熱源とした蒸気機関で動いていた。


クリュが充填した魔力石は大部分が蒸気機関と骸骨模型を動かすことに使われているのである。


彼を乗せたバスは繁華街へと向かっていった。




 帝都の繁華街。


それは無数の酒場と娼館と男娼館が立ち並ぶ快楽の街。


光の魔法による街灯と窓からの灯り、カラフルに輝く看板が猥雑な雰囲気を作っている。


経営方針により、娼館・おまんこファンタジー7号店は、同系列経営の男娼館・ペニスの王子様7号店と併設されていた。


この後の展開を期待しつつ、クリュは光の魔法による派手な装飾が飾られた娼館の入り口をくぐり店に入った。


おまんこファンタジーの系列店は特殊性癖には対応していない、娼婦が男性客に抱かれたり、男娼が女性客を抱くだけのシンプルな店である。


産業革命以前は娼婦や男娼の地位は低かったが、今ではそうではない。


一定水準以上の美貌と肢体を持つ男女のみが就くことができる、専業魔力充填労働者より稼げる仕事である。


性病予防も避妊も魔法により完全であり、不老と若返りの恩恵を全臣民が受けられるクエーサー帝国においては、老いて容色が衰えた後のことを考える必要も無い。


骸骨模型の技術が進めば、いつかは娼婦、男娼も人間と見分けのつかない、人造人間と呼べるまでに進歩した骸骨模型に取って代わられるという未来予測もあるし、人造人間娼婦に恋した男の顛末を綴った空想科学小説もクリュは読んだことがあった。


しかしそのような未来はまだ先であり、人間から性欲がなくなることも考えにくい。


当面の間、性産業従事者は安定職だろうと思われていた。




 クリュはおまんこファンタジー7号店でナンバーワン嬢、エリアスを指名するつもりだったがそれは叶わなかった。


「えー、先に指名されてたの?」


「辞めたの。学業に専念できる資金が貯まったからって。進学先はクエイスシャイタン医学大学だそうね」


(彼女も上を目指すのか)


元々、エアリスとは金を払って抱くだけの関係である。


帝都では娼館と男娼館においては娼婦男娼に恋をしないのがルールでありマナーなのだ。


それに反する行いは無粋として嫌われる。


とはいえ、自分と同じように資金を貯め進学するらしいエリアスに一方的に好感を持ったクリュであった。


「私も資金を貯めて進学しようかな。うん、そうね。そうしましょう。何を勉強すればいいか、神託魔法で適性を見てもらうわ」


「エリアスちゃんがいないなら、今日はファティちゃんで」


「わかったわ」




 そしてクリュは事を終え、店を出た。


街が明るすぎて星がよく見えない空には、無数の航行灯を灯した輸送飛行船が目的地に向かって航行しているのが見えた。


(あの飛行船にも俺が充填した魔力石が使われているんだろうか)


そんなことを考える。


この街が光に包まれているように帝国の未来も自分の未来も明るい、クリュはそう考えていたし、それは帝都の臣民の多くに共通した思いだった。

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