第42話気持ちの整理
あれから一週間、俺と青ちゃんは別行動を取っていた。
前回の戦闘のことで、まだ気持ちの整理ができず、適当にクエストを受けたり違う町に行って売られている装備品をチェックしたりして過ごしていた。
何か特別やりたいことがあるわけでもなく、ただブラつくだけだった。
喪失感は簡単に紛らわすことはできなかったけど、ふとしたときに顔を出す程度には飼い慣らせるようになっていた。
完全になくなることも忘れることもきっとないんだろう。
こうやって付き合っていくしかないようだ。
宿屋に帰ってくると青ちゃんとばったり顔を合わせ、お互い軽く会釈する。
「あ、明日、だね?」
「そ、そうですね。宿屋の前で待ち合わせましょうか」
「う、うん」
部屋に戻ってきて、お願い直後に買った一張羅に袖を通してみる。
「これで大丈夫かな……」
明日は青ちゃんとデートの日――。
◆一週間前◆
何かやってほしいことを青ちゃんに言われて、俺はひとつ提案した。
「じゃあ、今度デートしてください」
ぼふふふん、と青ちゃんの頭から湯気が出るほど耳まで真っ赤になった。
「い、いいよ……? ちょっとだけなら……じゃ、じゃあ、そゆことで……」
動揺で目をぱちくりさせながら、カチコチ、とぎこちない動きで部屋を出て行こうとする青ちゃん。
何もないところでつまづいて、転びかけていた。
照れ笑いを浮かべた青ちゃんが部屋から出ていく。
しばらくぼんやりしたまま、俺はようやく我に返った。
ダメ元で言ったらすんなりとオーケーされてしまった。
「うわぁ。青ちゃんとデートだ……! 服買わないと!」
俺は財布の中身を確認して、すぐに宿屋を飛び出した。
◆中林青葉◆
自室に戻った青葉は、財布の中身を確認する。
デートに誘われて、それをオッケーしてしまった。
ドキっとしたあと、くすぐったくてあったかくなって、その間も胸はドキドキしていた。
街をぶらついたり、海で遊んだりしたことはあるが、デートとして誘われてオッケーしたのはあれがはじめてだった。
「ふっ、服、買わなきゃっ!」
ドタバタと足音を鳴らして、ふと冷静になる。
デートに誘われて大慌てしているなんてバレたら、年上としての沽券にかかわる――。
ここは焦らずゆっくり、優雅に……。
「べ、別に私、デートくらいしたこと………………」
なかった。
経験のなさが情けなくなり、思わず膝を着きそうになる。
「で、デートって言っても、湊くんとて高校生……。年相応の、いわゆる遊びの延長みたいなものだと思うし……そんなに気合入れることないんじゃないかな。うんうんうん。逆にばっちり決めていったら引かれるかもだしね」
すとん、とベッドに座って、青葉が落ち着きなく足をパタパタさせていると「うわぁ。青ちゃんとデートだ……! 服買わないと!」という声がうっすらと隣から聞こえてきた。
「ちゃ、ちゃんとしたやつやる気だ――!?」
そもそも『ちゃんとしたやつ』とは? というところからなのだが、普段と違うオシャレをするということだけは、ニュアンスとして理解していた。
隣の部屋の扉が開いて、小走りで廊下を走っていく音が聞こえる。
「私も行かないと――」
鉢合わせませんように、と祈りながら、青葉も部屋を出て行った。
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