第41話討伐報告と青ちゃんにお願い

「これが、討伐したときにドロップしたアイテムです」


 俺と青ちゃんはBQ完了の報告をするため、ギルドに帰ってきていた。


 いつもは眉一つ動かさない受付嬢が、カウンターに置いた【アンバーのマジックロッド】と俺たちを二度見した。


「『紅蓮の明星』も全滅したという話だったので」


 目を剥いて驚く受付嬢。

 そのパーティは、Sランクって話だったから、アンバー討伐の大本命だったんだろう。


「……まさか、今日のうちに悪い知らせと良い知らせの両方が聞けると思っていなかったもので、感情をどうしていいのか」


 受付嬢が戸惑っていると、話を聞いた支部長が俺たちを以前の応接室に案内した。


「BQを早くも達成したんですって?」

「はい」


 俺と青ちゃんの表情は晴れない。

 討伐の達成感よりも、一時的なパーティだったとはいえ、仲間を失ったショックのほうが大きい。


「すごいわね……レベルも今で37……。到底勝てるようなステータスでもないでしょうに」

「戦術次第でしょう、そのへんは。二人だけで勝ったわけでもないので」


 まだ何か話を聞きたそうな支部長だったが、俺は会話を切り上げて報酬を受け取った。


「お金は、こちらで預かることもできるわよ。噂を聞きつけた悪党に盗まれないとも限らないでしょうし」


 俺と青ちゃんは話し合い、使い道が決まるまで預かってもらうことにした。


「逆に、ギルドが危ないってことはないんですか?」

 青ちゃんが素朴な疑問を投げかけた。


「襲ってくるバカはときどきいるわね。でも職員全員で撃退してるから大丈夫。ほどほどに回る頭があれば、ギルドを襲うよりもギルドで仕事をしたほうが儲かるとわかるものなのだけれど」


 苦笑しながら支部長は肩をすくめる。


「……クロムの『光の盾(グロリアスシェル)』の全滅は残念だったわね。今でこそSランクパーティの彼らをEランクの頃から知っているから、報告を受けて、私もまだ整理がついていないの。いつかこんな日が来ると覚悟はしていたのだけれど、やっぱり、ね……。辛いわ」


 Sランクだったのか。

 他の冒険者やパーティに興味がないから全然知らなかった。


「クロムはミナトのことをすごく高く買っていたのよ。だから真っ先に声をかけたのだと思う」

「すみません、なんか」

「ううん。経験しない冒険者はいないでしょう」

「そう、ですかね……」


 曖昧に答えると、ほどほどに会話を切り上げて俺たちはギルドを出ていった。


 アンバー戦、もっと上手くできたんじゃないかって、つい考えてしまう。


 最初から、SPを削り切ってマグロ状態にすれば良かったんじゃ……。

 でも、それだと全員が俺の【盗賊の嗜み】とアンバーの攻撃待ち。

【素早さ】が高くてどういうスキルを使うか知っている俺だから回避できるのであって、SPがゼロになるまでの間、みんなが上手くやれるとは思えない。

 待ち一辺倒では、全員俺を活かすための的になる必要があった。


【ハヤブサ】【鋭利な一撃】――ハヤブサの一撃の効果はあらかじめ伝えていた。クロムは、防御力を上げるデメリットはあったけど【盾持ちの矜持】が使える、と思ったんだろうな。


 じゃあ、ハヤブサの一撃と青ちゃんの【鈍足】、クロムの【盾持ちの矜持】を初手から仕掛けていたら――?

 ……まあ、二、三回は成功するだろうな。

 でも、それでは倒せない。そのあとは、防御が上がったままのアンバーが残る。

 で、俺を警戒するようになる。もし俺が落ちたら、不確定要素はゼロになる。そうなればアンバーにスペックで押し切られて全滅するだけだ。


 結果からいうと、保険としてアンバーに【スターレイ】を無駄打ちさせるために丘を駆け回ったあれが、分水嶺になった。


 俺がターゲットを取りながら……俺がアンバーなら【盗賊】を狙うからだが……隙を見て異常状態にしまくって、HPを削る。このプランが比較的安全なものだったが、アンバーが思いのほか感情的だったのが誤算だった。


「湊くーん?」

「あのままもっと【スターレイ】を撃たせてSPを消費させていたら……いや、陽動を疑われるか。そこまでバカじゃないだろうし――」

「みっ、なっ、とっ、きゅーんっ!」

「あいつマジでめっちゃ嫌な女の人になってたな……。夢に出てきそう。気に入りのキャラだったのに……」

「湊くんっ、私の話聞かないとキスするよ!」

「え。キス?」

「うわあ!? なんでそれだけきちんと聞こえてるの!?」


 青ちゃんが驚いていた。

 俺はほぼ無意識だったようで、気づいたら定宿の部屋にいた。

 座っているベッドの隣には青ちゃんがいる。


「先生、キスってなんですか?」

「私の話、全然聞いてくれないから、ちょっと言っただけですぅ」


 青ちゃんは小さく舌を出した。


「独り言をずっとブツブツブツブツ言ってるから、心配になっちゃって」

「すみません。戦闘のことが、頭から離れなくて」


 青ちゃんが体をこっちに向けて、励ますように俺の手を握った。


「私たちは、最善を尽くした。私は私なりに頑張ったつもりだし、湊くんも、とぉぉぉぉっても頑張ってた!」


「そう、ですかね?」

「頑張ってたのっ」

「……ありがとうございます」


 俺が浮かない表情を続けているせいか、口をへの字にした青ちゃんは、がばっと俺を抱きしめた。


「――え?」


 背は青ちゃんのほうが低いので、頭が俺の胸元にある。髪の毛の清潔ないい香りが鼻先で漂った。


「気持ちの置き所は、まだ私もわからない。でも、湊くんのせいじゃないんだよ」


 心配そうに俺を見上げる青ちゃんは、頭を撫でてくれた。


「話しかけても上の空だったから、先生、心配です。湊くん、責任感強いし」


「……俺が、我がままを言って、みんなを巻き込んで」


「違う。もしそうしてたら、もっと大勢が犠牲になってる。湊くんは未然にそれを防いだんだよ」


「でも俺があんなやつ作らなければ――」

「ああなるなんて、そんなの誰もわからないじゃん」


 ぎゅっとする力が少し強まった。


「湊くんも、して?」

「え?」

「落ち着くから」


 はぁ、と謎の指示に俺は首をかしげながら、遠慮がちに青ちゃんの背中に手を置いた。


「もっと、ぎゅうってして」

「はい」


 言われるがまま、青ちゃんの体を抱きしめる。

 服と髪からいいにおいがする。

 青ちゃんの体温が服越しに伝わってきて、気分転換にはなった。


 すぐに青ちゃんは回していた腕をほどいた。

 自分でやっておいて恥ずかしかったらしく、頬を少し赤くしている。


「気、紛れたかな」

「はい、おかげさまで」

「湊くん、どうしたら元気出るんだろうって考えてて」


 それがあれだったらしい。


「他に私にやってほしいことある?」

「やってほしいことですか?」

「え、エッチなやつはダメだよ!?」

「わかってますよ」


 言う直前に、おっぱい揉ましてほしい、って口にしかけたけど。

 他に何かあるかな、と考えて、俺はひとつ提案した。

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