第37話古城の魔術師アンバー1


「っと、話してる間にまた敵かよ」

「キリがないわね」

「消耗するどころか、【魔術師】のとこにも行けねえ」


 それが狙いなのだろう。この古城は、正式なダンジョンではない。なのでRP(レストポイント)がない。


「キリのねえ消耗戦とくりゃ、オレが一人で引き受けるぜ……!」


 首をコキコキと鳴らした【拳闘士】が前に出る。


「だいたい敵の攻撃パターンはわかった。余裕っしょ、もう。物理と一発一発の攻撃速度ならこの中でオレが一番だ。身のこなしも良いしな。オレならスキルをさほど使わず手数で圧倒できる。――先行けよ」


 確かにその通りではある。

 客観的な判断であれば、【拳闘士】が適任。


「じゃあ、デミル、あとを頼む」


【聖騎士】が、デミル――【拳闘士】の肩をポンと叩く。


「行こう。ここはデミルがなんとかする」


 俺が何かを言う前に、デミルが飛び出していきシャドウとの戦闘は開始した。

 デミルが、雄叫びを上げて攻撃を連打している。

 物音に引きつけられた敵が、ぞろぞろとデミルのほうへ近寄っていき、彼の姿はシャドウに覆われて見えなくなった。


「ここにいても埒が明かねえ。行くぞ」


【聖騎士】に促され、俺たちはアンバーを探すため足を急がせた。


「今さらだがよ、【拳闘士】のあいつはデミル。で、オレはクロム。覚えとけよ」


 と【聖騎士】が言う。


「俺は湊です」

「私は青葉です」

「俺が【魔剣士】のクエンティン。こいつが【狩人】のアイザック、で、この【白魔術師】の女が」

「女性って言えないのかしら。……ウェンディよ。ミナトとアオバとは長くなるかもしれないから、よろしくって言っておくわ」


 今さらの自己紹介がなんとなく気恥ずかしい。

 みんな、知らなくてもいいか、と思っていたに違いない。

 でも、もしかすると、今後何かで協力し合える仲になるかもしれない――そんな思いがよぎった。それはきっと俺だけじゃなかったんだろう。


 クエンティンがさらりとパーティのことを教えくれた。


「俺たちゃ、全員昔からの幼馴染でな。気心知れてるってワケよ」

「そんな仲なのに、デミルさんは、あれでよかったんですか……?」

「俺たちの中で、あいつが一番ズル賢いっていうか、クレバーなところがあるから、クロムもあの場を任せたんだと思うぜ」


 なるほど。場合によっては独自の判断で脱出するんだろうな。


 デミルが敵を引きつけているおかげで、廊下に敵の姿はなかった。


【魔術師】が力を発揮しやすい場所となると、広い空間が必要になる。


 だから、大広間だろうと見当をつけて俺はみんなの先を走る。


 閉まっている扉を押し開けると、最奥の豪奢な椅子に、一人の女性が座っていた。


「ここまできた侵入者(ネズミ)は、久しぶりだわ」


 間違いなく俺が作ったキャラのアンバーだった。

 長い金髪に赤い瞳。

 黒いドレスは丈が短く、足を組んでいると白い太ももが半分くらい見える。

 不敵に笑い、白い歯を覗かせていた。


「ちょっとは楽しめそうな人たちね」


――――――――――

アンバー

LV:65

HP:886

SP:711

――――――――――


 アンバーの体が座ったままの態勢でふわりと宙に浮いた。淡い光を放つ無数の蝶が手元に集まると、武器の杖に変化する。

【マジックロッド】を持っているのも一緒だ。


【マジックロッド】は序盤に手に入れられる後衛専用武器のひとつだが、改造に改造を重ねているので、地味な見た目に反して高い魔法攻撃力を備えている。


「この人が湊くんが作ったアンバー……?」


 追いついた面々が戦闘態勢に入る。


「はい。遠中距離では絶対的な火力を誇る、俺が育て上げた自慢のキャラです」


「何をゴチャゴチャと言っているの。ここにいた人たちのように、ゴミみたいに消してあげるから、かかってらっしゃい」


 ここにいた人たち……?


「元々ここは『紅蓮の明星』っつークランの本拠地だったって話だ」

「超有名な大クランだったのに、ここにいた冒険者たちは一夜にして消えたんだと」

「あの人の仕業ってことらしいけれど、本当みたいね」


【聖騎士】たちが教えてくれた。


 善良な人間に向かって一方的に攻撃するのは悪名が上がる行為だ。


「有名らしいけれど、ずいぶんと弱かったわ。笑ってしまうくらいに」


 アンバーは侮蔑の笑みを浮かべて肩を小さくすくめた。そして、目つきが獲物を見つけた猛禽類のように鋭く尖った。


「あなたたちは、どうかしら――?」


 杖を一振りすると、攻撃スキルを放った。

 風を纏ったような魔力の弾丸――【エアロ】だ。


 ある程度アンバーが使うスキルは俺が教えていたので、みんな慌てることなく、速やかにバラけた。


 入口あたりに攻撃が直撃し、扉や壁が吹っ飛んだ。


 これが戦闘開始の合図となった。


 俺が真っ先にアンバーに突っ込んでいく。


 後衛職全般に言えることだが【素早さ】はさほど高くない。

 それはアンバーも同様。とはいえ、レベル差があるので大きく開きはないが。


 今の俺の足なら、ターゲットを取りながらかく乱することは難しくない。


「フフフ。アハハハハ! 落ち着いてまっすぐ突っ込んでくるなんて、ずいぶん場慣れしているじゃない!」

「そりゃどうも」


 中距離攻撃スキル【ソードランス】が一斉にアンバーの背後に出現する。

 それらが俺目がけて飛んできた。


 ここでそのスキルを使うのか。

 まだまだだな。もっと効果的なスキルは他にあるのに。


 俺たちのことをまだ侮っているのか?

 それならそのまま倒すまでだ。


 俺が一本、二本、と攻撃を回避する。


「オォォォォアァァァアア!」


【聖騎士】のクロムが雄叫びを上げて死角からアンバーに突っ込んでいく。


「無骨で無粋ね」


 嘲笑うアンバーはクロムの突進を宙を移動して回避する。その先に【狩人】アイザックと【魔剣士】クエンティンの中距離攻撃が襲う。


「仕上がってる! 仕上がってるじゃない! スムーズよ、とっても! これでたくさん倒してきたのね!? 自信が窺えるわっ!」


 楽しげに笑うアンバー。


「いいパーティね!」


 杖をまた軽く振ると、防御スキル【デコイ】が発動。

 複数の球体が無作為に動き回り、それに釣られて、アタッカー二人の攻撃が球体に直撃し消えていった。


「連携攻撃が……」

「なんなんだよ、今のはよぉ」


 予想内。予想内だけど、アンバーは動きがにぶい分、防御スキルや称号を覚えている。火力一辺倒の後衛ではないのだ。


 宙に浮かんで移動するため、クロムの体当たり(シールドバッシュ)はまず当たらないだろうし、アタッカー二人の攻撃も、格上で攻防完璧にこなすアンバーには直撃しない。


 ……となると――。

 プランB。

 サインを出すと、それぞれが確認し次の動きをはじめる。


 青ちゃんの【邪法】が発動し、アンバーにヒットする。


「こんなの、攻撃が当たらなければ意味ないじゃない」


「――当たるよ」


 俺はその隙に「糸」を使って高速移動。青ちゃんに気を取られていたアンバーは俺のことは、見えていなかった。

「糸」を持っていて、こんな機敏に行動できるのは予想外だったろう。

 完全に背後を取ることができた。


<アンバーに4のダメージを与えた>

<アンバーは[出血]した>

<アンバーは[出血]で10のダメージを受けた>


「っ?」


 ようやく俺に気づいたか。

 だが、二剣が当たるほどの超近距離で、アンバーにできることは少ない。


「その程度の攻撃で――」


 杖が蝶になって舞い散ると、直後にアンバーの手には魔法で作られた剣が握られていた。


 レベル差が三〇もある。

 不得手とはいえ、当たっていい攻撃なはずがない。


 ブン、と魔法剣を振るが、「糸」の変則的な動きは読めないようで、簡単に回避できた。


 俺は周囲を飛び回り、毒剣と棘剣のヒットを重ねていく。


<アンバーに5のダメージを与えた>

<アンバーは[出血]で12のダメージを受けた>

<アンバーは[毒]になった>

<アンバーは[毒]で12のダメージを受けた>


「面倒な!」


 アンバーの綺麗な顔が不快そうに歪んだ。


 今度は飛び回る俺に気を取られているせいで、アイザックとクエンティンの攻撃がヒット。

 HPをさらに削り、嫌がったアンバーは浮くのをやめて床に足をつけた。


「浮いてなけりゃ――!」


 クロムが再びアンバーに突進していく。重そうな盾を構えながら、もう片方の手には、俺があげた伝家の長剣が握られていた。


 今度は杖を手に持つアンバーは、また違うスキルを使った。


「重装系の騎士かしら。あなたのその勇気に免じて、一発だけ食らってあげる」

「ナメんじゃねえぞオイ!」


 バレてるな。

 クロムの物理攻撃の低さが。

 クロムが長剣でアンバーを斬りつけるがビクともしない。

 その瞬間、広間の全域から鋭い棘状の岩石が無数に隆起した。


 範囲攻撃スキル【グランドアッパー】だ。


 青ちゃんがヤバい。


「間に合え――!」


「糸」で飛んでその場を離れると、以心伝心していた青ちゃんが手を伸ばす。がっちり掴んで、そのまま壁に一時退避。

 ドガガガガガガ、と凄まじい揺れと音で仲間の声が一切聞こえなくなる。


 クロムたちを心配に思っていると、攻撃が止んだころに声が聞こえた。


「広範囲の攻撃スキルは、派手な割に威力はそうでもない――っていうのは本当みたいね?」


【白魔術師】のウェンディが、魔法防御系スキルを使っていた。一定範囲内の味方を守るスキルで、多少ダメージを受けていたが、致命傷には至らなかったようだ。


「いてて……。ウェンディいなかったら死んでたわ」

「ウェンディ、愛してるぜ」

「ウェンディしか勝たんわ」

「うざ」


 と言いつつも、少し嬉しそうなウェンディだった。


 余裕ぶっていたアンバーの表情に、一瞬だけ苛立ちが浮かんだ。











※作者からのお知らせ※

新作「錬金術師の山暮らしスローライフ ~死のうと思って魔境に来たのに気づいたら快適にしてた~」を連載しています!

こっちとは違って物作りスローライフファンタジーです。


気になったらこちらも読んでやってください<m(__)m>


リンク↓↓↓

https://kakuyomu.jp/works/16818093089459482667


よろしくお願いいたします。



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