第35話ウチらって良いパーティ

「アイテムなんて後にしろ!」


【聖騎士】がすごい剣幕で怒ってきたが、俺は毅然と言い返した。


「いえ。先です。絶対に先」

「湊くん、何を取ってきたの?」

「これです」


 俺は【SPポーション】を見せる。全員一定の理解は示したけど、釈然としない様子だった。

 そりゃそうだ。死んだら元も子もない。


 だが、俺には、このアイテムにはSPを回復させる以上の重大な価値があった。


「必要かもしれないが、余分にいくつか持ってる」

「ああ、言ってくれりゃ渡したのに」


 親切な発言が意外で、俺は目を丸く舌。


「トーゾク、おまえ頭おかしいな」


【拳闘士】が小さく笑って言った。

 いい意味でおかしいっていうニュアンスだった。


「無神経なくらいじゃねえと、あんな敵に挑もうなんてしないわな」


 続けた【狩人】も肩をすくめた。


「バカでしょ。あんな攻撃受けたら、死ぬわ、確実に。トーゾクが一番アイツに詳しいのに、あんたが死んだら全部ぱぁじゃない。自重しなさいよね」


【白魔術師】が人差し指で、つんつんと俺の胸元をつついてくる。


「はい。気をつけます」


「……」


 じっとりとした視線を感じて、そっちに目をやると、青ちゃんが半目をしていた。


「なんかニヤけてる。怒られてるのに、何喜んでるの」

「いやいやいやいや、別に、俺は、そういうアレじゃなくて……まあまあ、心配してくれるんだなぁって思っただけで……」

「ふうん」


 ぷい、と青ちゃんはそっぽを向いてしまった。


 ……これはもしや、嫉妬というやつでは。


 不満げな横顔を見せる青ちゃんは、唇を尖らせて、いかにも機嫌が悪そうだった。


「ジュジュツさん、どうかしたかい?」

「なんでもありません」


【魔剣士】が気を遣って話しかけても取り付く島もなく、俺を含めた男たちに微妙な空気が流れた。


「と、とりあえず、だ。トーゾク、おまえは相談なしで単独行動するなよ。オレたちは即席とはいえパーティなんだからよ」

「すみません。気をつけます」

「ウチも責めたけどさー、トーゾクがああやって走り回ったおかげで、全員無事に水路の中に入れたわけだし、結果オーライじゃん。一言あれば確かに良かったけど、悠長に相談してる場合でもなかったし」


【白魔術師】がフォローしてくれた。

 この子、いい子……。

 このクエストのために組んだだけの一時的な仲だけど、パーティってこんな感じだよなってゲーム時代を思い出して懐かしくなる。


「足を止めさせてすみません。行きましょうか」


 俺が促すと、【聖騎士】を先頭に薄暗い水路を進みはじめた。


 中は湿度が高く、じっとりとした空気が肌に吸いつくようだった。


 低レベルの魔物がときどき現れたが、中距離戦が得意な【魔剣士】と【狩人】が即座に撃破。

 苦労することなく、城の真下あたりまでやってこれた。


「この階段を上ると城内です」


 みんな、緊張を滲ませてうなずく。


 そのとき、階段から、ガシャン、ガシャン、と音が聞こえる。

 見上げると、甲冑の騎士がゆっくりと下りてきていた。


「冒険者……?」


 青ちゃんのつぶやきに俺は答えた。


「……敵です」


 甲冑のヘルムの間から三つの赤い目が光り、背にはボウガン、手には長短の二剣を握りしめていた。

 燃えるような赤いオーラが全身から揺らめいている。


――――――――――

三つ目の紅の騎士

LV:55

HP:651

SP:322

――――――――――


 いかにも強敵です、という演出に、パーティの緊張感は一層高まった。


 SPを温存したいが、あの長剣はたしか……。

 頭の中にあるゲームの記憶を掘り起こす。


 紅の騎士が立ち止まると、赤いエフェクトが足元から頭までを包んだ。


「物理攻撃上昇のバフです。気をつけてください」

「――んなの関係ねえよ!」


【聖騎士】は体の大半が隠れるような大盾を構え、敵に突進していく。

 それを援護するように【魔剣士】がスキル【スラッシュ】を使う。


 スキルは敵に直撃するが、意に介した様子はない。

 直後、盾ごと【聖騎士】が体当たりしようとする。


「――」


 片手で楽々と振った長剣が盾に直撃する。

 ガギン、と鈍い金属音が上がり、盾が長剣を弾いた。お互いのけぞるような形になり、紅の騎士に隙が生まれた。


「ここなら――」


 俺は「糸」を使って機敏に移動し、紅の騎士の背後を取る。

 それと同時に、青ちゃんの【邪法】が敵に命中。


「だよね!?」

「そうです!」


 青ちゃんは、サインなしでも最近はスキルの使いどころを理解するようになっている。【呪術使い】として成長著しいな。


 俺は態勢を立て直そうとしている敵に【盗賊の嗜み】と【盗賊の審美眼】を同時に発動させた。


 チャリン、と成功音が聞こえる。


<三つ目の紅の騎士から[鉄の籠手]か[ポーション]か[伝家の長剣]を盗み、SPに29のダメージを与えた>


 俺に気を取られた紅の騎士は、ゆっくりとこちらを振り返る。


「まだまだ――」


 さらにスキル【騙す】を発動させた。


 また隙が生まれると、【狩人】が背後から攻撃スキルの矢を放つ。青白く光った三つの矢が敵の甲冑を貫く。

 続けて【魔剣士】がスキルを使い、剣に炎を纏う。雄叫びを上げて炎剣で斬りつけ、ダメージを与えた。

 それがクリティカルヒット。


 敵をダウンさせると、【拳闘士】の連続攻撃でさらにHPを削り切り、敵を倒した。


<潮崎湊は1340の経験値を得た>

<レベルが1上がった>

<スキル[盗賊の嗜み]の熟練度がEになった>

<スキル[騙す]の熟練度がA+になった>

<スキル[盗賊の審美眼]の熟練度がB-になった>

<三つ目の紅の騎士から12000リンを得た>


――――――――――

潮崎湊

職業:盗賊

LV:30

HP:119/119

SP:80/88

攻撃:42+15

防御:27-4

魔攻:23

魔御:22+11

素早さ:47+6+3+17

称号:豪胆な盗賊 執念の炎 蜃気楼 毒殺犯 エンジェルキラー

スキル:盗賊の嗜み(E)騙す(A+)火遊び(C+)盗賊の審美眼(B-)ハヤブサ(E)鋭利な一撃(E)

――――――――――


 盗んだアイテム選択となり、【伝家の長剣】を選んだ。


――――――――――

伝家の長剣 攻撃+40 防御+6

剣士騎士職専用の武器。

――――――――――


【聖騎士】が嬉しそうに駆け寄ってきた。


「トーゾク! やっぱおまえすげえな! 一撃食らえば死ぬのに。隙を作るスキル使ったろ。思った以上にスムーズに倒せた。ありがとな」

「いえいえ」

「だよなぁ、あんなに一瞬で倒せるとは思わなかったわ」


【狩人】が感心したように言うと、【拳闘士】もうんうんとうなずいた。


「先生……【呪術使い】の【邪法】でクリティカル発生率が上がって、俺のスキルでもクリティカル威力が上がるようにしたんです」


 それに【魔剣士】がピンと来たようだ。


「あ、やっぱり! なんかいつも以上にダメージ出たと思ったんだよな。おまえらの仕業かよ」

「まあまあまあまあ……はい」


 褒めてくれる仲間たち。


「え、やだ、もしかしてウチらいいパーティ?」


 冗談っぽく【白魔術師】が言った。

 さっきまでの緊張感がゆるみ、和やかな雰囲気になった。


「これ、俺じゃ使えないんでお二人のどちらかが使ってください」


 俺は【聖騎士】と【魔剣士】に盗んだばかりのアイテムを見せた。


「うわっ。【伝家の長剣】!? ドロップ? え、盗んだ!? こんなエグいアイテム盗めるのかよ!?」

「盗むってすげーな……。けど、もらっていいのか、こんなアイテム」

「はい。俺じゃ使えないんで。もしあれなら、良い素材にもなるので、気に入る武器が作れますよ」

「「良い奴かよ」」 


 じゃあ、と【聖騎士】が所持品を確認して、ひとつアイテムを出した。


「これもらってくれよ。デミル……【拳闘士】が使わないからよ。売ろうかバラすかしようと思ってたんだ」


 そのアイテムは【刺々しい短剣】だった。


「うわ、棘剣だ! いいんですか、これ!?」

「え? ああ、もちろん。使い道なかったからな」

「ありがとうございます!」

「そんな喜んでくれるの? これそんなにいいのか?」


【聖騎士】がきょとんとしていた。


「はい! めっちゃありがたいです!」

「ならよかった。じゃ、交換ってことで」


――――――――――

刺々しい短剣 攻撃+11

軽装職専用の武器。

刀身に細かい棘がびっしりと生えている。低確率で対象を出血状態にする。

トゲトゲシリーズのひとつ。

――――――――――







※作者からのお知らせ※

新作「錬金術師の山暮らしスローライフ ~死のうと思って魔境に来たのに気づいたら快適にしてた~」を連載しています!

こっちとは違って物作りスローライフファンタジーです。


気になったらこちらも読んでやってください<m(__)m>


リンク↓↓↓

https://kakuyomu.jp/works/16818093089459482667


よろしくお願いいたします。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る