第34話超長距離攻撃とSP


 一時的に特別パーティを組むことにし、俺たちは受付嬢にその旨を伝え、バウンティクエストを開始した。


 馬車で付近まで移動することにして、俺と青ちゃん、【聖騎士】と【白魔術師】が同じ馬車に乗った。


「クエストがはじまって四日。もう八組が受けたって話だったな」


【聖騎士】が言うと、【白魔術師】が続けた。


「どうせ金目当てで、様子見て無理そうなら逃げるような輩でしょ? 真っ先に飛びつくやつってだいたいそうじゃない」


 気だるげな【白魔術師】。

 さっきまで、【聖騎士】が報奨金は要らないと言ったことをチクチクと責めていた。


「だとしても、失敗もキャンセルの報告もない。どのパーティもまだ帰ってこれてねえ。八組ともまだ道草食ってるわけじゃあねえだろ」


 青ちゃんが表情を曇らせていた。


「相当な強力な敵なんだね……。私、もっと人気なのかと思った。三〇〇〇万って、すごいじゃん」

「ジュジュツはあんまわかってないな? 人気どころのBQ(バウンティクエスト)は、報奨金が一〇〇万以下のやつだ。なぜかっていうと、討伐対象が弱ぇからだ。で、そいつらに勝てるやつらの強さもそれなり。ってことは、数も多い」


 ゲームでもそんな感じだったので、俺は小さくうなずいた。

 BQを専門にしているプレイヤーはいなかったけど、討伐対象が弱いほうが、受けたがる人が多いので人気だった。


 変な緊張感に車内が包まれている。

 窓からは、遠くにかすむ古城が見えてきた。


「アンバーがいるとされる古城は丘の上にあって、有事の避難経路にもなる水路が丘の南側に通じています。城近辺まで歩いて行かなくても、水路から侵入できます」


「マジかよ」

「え。マジ?」

「そうなんだ!」


【聖騎士】【白魔術師】青ちゃんの順で声を上げた。


「正面から向かうと、手荒な歓迎を受けることでしょう」


「詳しいな、トーゾク」

「ええ。まあまあまあまあ。友達みたいなもんですから」

「悪堕ちしたツレを己の手で止めるってか? カァーッ、アツいじゃねえか……!」


 まあ、そういうことにしておこう。

【聖騎士】がそれを後続に伝え、二台の馬車は丘をぐるっと迂回しはじめた。

 その途中、青ちゃんが窓の外を指さした。


「あ。あれって他のパーティかな?」

「一、二……、一〇人ちょっといるな。二パーティが組んだってところか?」

「やだ。Sランクパーティじゃないの!」


 丘をのんびり登っていっている先行者たち。


「……死にますよ、あの人たち」

「なんでわかんだよ」

「Sランクパーティの実力、ナメちゃだめよ、トーゾク君」


 アンバーが六三レベルなら、アレを覚えているはず。

 城に人影が見えるのとスキル発動のエフェクトが見えるのは同時だった。


 琥珀色の光りが一瞬輝くと、ビョオン、と独特の発射音が聞こえる。

 超長距離狙撃スキル――【スターレイ】だ。


「あ、ヤバい」


 言った直後、轟音と悲鳴が響き渡る。

 砂煙が立ち上り、それが晴れると、一〇人ちょっといたはずの先行者が半分に減っていた。 


「い、一気に何人も死んだ!?」

「Sランクパーティってことは、個人ではAランクが平均よ!? それが、一瞬で……」

「み、湊くんの知り合い、エグすぎない……!?」


 俺以外の三人が引いていた。

 混乱する先行者たちが、何かわめいたりしている間、背中を向けて逃げようとした一人が再び放たれた【スターレイ】によって爆散した。


「「「……」」」


 俺以外の三人が顔色を失くしていた。


「逃がさないという意思を強く感じます。丘を登らないで正解でしたね」


 アンバーの手の内を知っている俺からしたら、まああり得るだろうという展開だったが、三人には想像以上の光景だったようだ。


 散り散りになって逃げ惑う冒険者たちを嘲笑うかのように、アンバーは狙撃し、全滅させた。


 俺じゃない誰かがアンバーを動かして……アンバー自身が自分の判断で攻撃したのを目の当たりにして、持ちキャラのすごさを客観的に見ることができた。

 やっぱ強いなぁって思う反面、あれと戦うのか、と戦闘を想像してちょっとげんなりする。


「遠中距離の攻撃魔法系スキルが充実してますが、探知は苦手です。南側でしたら、小さな林が目隠し代わりになるので、狙われることなく水路から入れます」

「あんなの撃たれちまったら、盾があっても意味ねえよ」

「今日はもうやめましょう? あいつ、絶好調よ。ウチらが行ったって……」

「いえ。今日です。あの状況からして、今日が一番です」


 三人は顔を見合わせ怪訝そうな顔をする。


「ちなみにあれは、中近距離では撃てないので安心してください。攻略法があるとすれば、勇気をもって接近することです」


 アンバーも次なる挑戦者……俺たちのことは視認しているだろうが、城を出てまで攻撃するつもりはないようで、何事もなく迂回できた。


 馬車を下りた俺以外のメンバーの士気は非常に低い。


「敵は、ただの後衛のアタッカーです。みなさんとレベルも大きく違いませんし、連携すれば、敵ではありません」


 こう言うしかなかった。

 死人みたいな顔では、勝てるものも勝てなくなってしまう。


「そ、そうだな……!」

「やるしかねえ。望んだ相手だ」

「強敵撃破こそ、オレらの喜び」

「やるぞ! 行くぞー!」


 ちょっとだけ元気になったパーティを引き連れて、林の中に入る。


 付近では【スターレイ】が着弾し、丘の中腹に大穴を開けていた。


「わ、私たちを狙ってる?」

「はい。俺たちを探しているみたいですね」

「は、早く水路に入ろうぜ」

「いつか当たっちまう!」


 すぐに水路が見え、仲間たちが中に入る。でも何人かが遅れている。


「……」

「湊くんも、早く」


 立ち止まった俺に、青ちゃんが手招きする。


「この丘、アイテムがあるんで、ちょっと見てきます」

「え、ええええ!?」


 驚く青ちゃんをよそに、俺は林を飛び出した。


 アンバーにすぐに見つかると【スターレイ】が放たれた。

 直線的な攻撃である【スターレイ】は、弾道が読みやすく、俺みたいな軽装職だとかわしやすかったりする。


 駆け抜けた背後から爆音と地鳴りが轟き、吹き飛んだ土が頭に少しかかった。


「あと二、三発くらい撃ってほしいな」


 ダダダダ、と丘を駆ける俺に向かって、アンバーはまた【スターレイ】を撃った。

 これも難なく回避した。


 目的のアイテム【SPポーション】を見つけて回収する。

 水路までの帰り道、また狙撃してきたが、俺に当たることはなかった。


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