第29話青ちゃんは天然で無防備


 青ちゃんは大人だから、恋人関係になってからじゃないとセックスしないってことはないんだな。そうなんだな?

 順序が前後してもいいってことなんだよな?

 前後どころか体だけの関係でもいいってことなのか?


 と、俺が思考をフル回転させていると、リゾートホテルのエントランスにやってきた。


 ……思ってたホテルじゃない。

 お――思ってたホテルじゃないッ! (二回目)


 俺たちは、カウンターでホテルマンから説明を受けた。


「お二人が来た場合、ロイヤルスイートに案内しろとオーナーから申し使っております。もちろんお支払いは結構ですので――」

「やったっ。ロイヤルスイートだってさ、湊くん」

「そ、そうですね」

「湊くん、目が虚ろだけど、大丈夫?」

「一応……はい」


 青ちゃんは、ただ、今夜宿泊するホテルに行こうと言っただけだったらしい。


 どうせそんなこったろうと思ったよ。

 俺の緊張と胸の高鳴りを返してくれよ。


 るんるんとした足取りでホテルマンの後ろをついていく青ちゃん。


「湊くん、早く早く」


 青ちゃんはご機嫌に手招きをする。隣に並ぶと、「普通の高級ホテルなんだね」とつぶやいた。


「世界観はプレイヤーの都合のいいように出来てますから」


 魔物がいる世界だけど、場所によっては現代的な施設や建物があったりする。

 中世の街並みや文化レベルなエリアもあれば、国や街によっては現代的な場所もある。


 ホテル内には、高級レストランやトレーニングルームや屋内プール、ラウンジバーなどが併設されており、館内を歩くお客さんはリッチそうな冒険者が多かった。


 エレベーターで最上階にやってくると、四部屋しかない一室の扉をホテルマンが開けた。


「こちらをお使いください」


 入ってまず目に飛び込んだのは、オーシャンビュー。

 巨大なガラス張りの窓の外からは、遠くの水平線まで一望でき、手前には俺たちが戦った砂浜があった。


「うわぁ!」


 目を輝かせながら、青ちゃんが窓際まで小走りする。


「すっごい! ね、ね、見てほらほら!」

「見えてますよ」


 それでは、とホテルマンが去っていく。


「あ。湊くん、今、『大人のクセにはしゃぐなよなぁ』って心の中で思ったでしょ?」

「思ってないですよ。無邪気な先生が可愛らしかっただけです」

「そっ――そういうことすぐ言うっ」


 俺は青ちゃんのそばまで近寄り、景色を一通り眺めた。


「まあまあ、こんなもんでしょう」


 何度か来たことがあるので、知らない風景ではなかった。リアルで見ると本当に綺麗だ。


 中の設備も、部屋というよりはむしろ家と呼んでいい。

 寝室にはキングサイズのベッドがふたつ。

 バス、トイレはもちろん、ダイニングとキッチン、リビングまであった。


「向こうの世界でもこんないいホテル泊まったことないから、アガる~」


 わぁい、と青ちゃんはベッドに飛び込んでころころと転がる。


「これからどうします? 近辺で遊んで明後日くらいに帰りますか?」

「うん、さんせー」


 装備屋で買って物が入っている紙袋は、いつの間にかリビングに置いてあった。


「さっき何買ったんですか?」

「海……行くでしょ?」

「はい」

「……ね?」


 小首をかしげて小さく笑う青ちゃんに、思わずドキっとする。


「い、行きましょう今すぐ。即行で準備しますから」

「ふふ。じゃあ、準備できたら行こう」





 三〇分後。

 大急ぎで買った海パンを大急ぎで穿いて、大急ぎでビーチまでやってきた。


 青ちゃんは、その間にすでに水着を着こんでいたらしく、ゆるっとしたTシャツにショートパンツを穿いている。

 俺たちは、青ちゃんが買ったレジャーシートの上に並んで海と砂浜と青空を眺めていた。


「こんなに綺麗なんだー」

「これが本来の姿です。さっきのが異常だっただけで」


 他の海水浴客のはしゃぐ声が波の合間に聞こえてくる。


 さっきから、ちらちらとした視線を青ちゃんから感じる。


「あの、どうかしました?」


 青ちゃんの服の下どうなってるんだろう、ってさっきから想像している俺でも、これだけチラ見されれば気づく。


「湊くんって、ゲーマーでしょ。だから、もっと線が細いんだと思った。……意外と、イイ体してるね」

「そうですか?」


 敵との戦闘で元の体よりさらに引き締まったんだろう。食事に気をつけているわけでも筋トレしているわけでもないのだ。


「触っていい?」

「いいですけど」


 人差し指を伸ばしてくる青ちゃん。ツンと俺の腹筋に触れた。


「きゃっ」

「こっちのセリフですよ」

「固いから……びっくりしちゃった」


「先生は、水着どんなの買ったんですか?」

「気になるー?」


 ぱっと脱いで見せてほしいのに、じらしてくる。


「まあまあまあまあ……そりゃあ、まあまあまあ……」

「もぉ、しょうがないなぁ。そこまで言うなら、脱がないわけにはいかないかなぁ」


 どうやら、脱ごうと思っていたけどタイミングを逃してしまったらしい。


「目つぶってて」

「はい」


 ぎゅっと目をつぶる。

 素っ裸を見たことのある俺の想像力を舐めないでほしい。

 あの体に、水着……。

 青ちゃん、エロすぎんか?


 しゅるり、ぱさ、と小さな衣擦れが聞こえてくると、「いいよ」と青ちゃんが言う。


 目を開けたそこには、白い素肌を太陽にさらす青ちゃんがいた。


 大人っぽい黒のビキニで、胸元と両腰にリボンがあしらわれており、可愛らしさも忘れていない。


 おっぱいが特盛すぎる――。


「ど、どうかな」


 伏し目がちに青ちゃんが訊いてくる。

 唇を内側にしまい、俺の視線に恥ずかしそうに耐えていた。

 健康的な白い太ももがまぶしい。

 もじりもじり、と膝をすり合わせている。


「エ――」

「え?」


 エッチすぎる!!!!!!!!!!!


 って言いかけて、踏みとどまった。

 ちょっとしたハプニングがあったら、おっぱいこぼれるぞ、あれ。


「すごい似合ってて……その、可愛いです」

「ほんと? 良かった」


 太陽に負けないくらいの、輝かし女神スマイル。その発光具合に、俺の煩悩が浄化されていった。

 もう、今日が命日になっても構わん……。


「やったね」と喜ぶ青ちゃんは、拳を握って両脇を締める。

 胸が強調され、ふよん、と柔らかそうに揺れる。


 エロすぎる……。

 俺の煩悩、全然浄化されてなかった。


「湊くんもだけど、日焼け止めのクリーム塗らないと」

「俺は大丈夫ですよ」

「いやいや、紫外線舐めちゃダメだよ」


 ゲームの世界に紫外線ってあるのか?

 疑問に思いつつ、俺は青ちゃんの日焼け止めを貸してもらうことにした。

 あらかじめ買っていたらしい。青ちゃん、遊びの準備はすごくいい。


 青ちゃんは、小さなボトルから白い液体を手に出す。


「きゃっ。いっぱい出ちゃった」

「……」


 青ちゃん、わざとやってないか?

 天然だと思うけど、俺の煩悩がエグいせいか、狙ってるようにしか見えん。


 青ちゃんは、クリームを腕やお腹や足など、まんべんなく塗っていく。

 俺も日焼け止めを手の届く範囲に塗っていく。


「……湊くん、背中、お願いしてもいい?」

「いいですよ」

「寝転んだほうがやりやすいかな?」


 レジャーシートにうつぶせになり、瑞々しい背中をこちらに向ける。


「あとついちゃうから、水着の下もやってね」

「はい」


 うつぶせになったせいで、押しつぶされた胸が、体のラインからはみ出ている。

 俺の視線は、その一点に注がれていた。


 横はみ乳……。

 青ちゃんは、死角にいる俺が、どれだけガン見しているかなんて気づくまい。


「どしたの?」

「な、なんでもないです」


 横に座って、クリームをすべすべの背中に塗っていく。


「やんっ」


 ぴくん、と青ちゃんが硬直した。


「い、今エッチな触り方した!」

「してないです。エッチって言うほうがエッチなんです」

「うっ……そうかも」


 納得しちゃった。


 小ぶりなお尻に、水着が食い込んでいる。それが気になったのか、手でさりげなく直した。依然としてはみ出たおっぱいを気にする素振りはない。

 生乳が二割くらいずーっと見えてるんだよなぁ……。


「ここ、天国なのか……?」

「それくらいすごい景色だよねぇ」


 そういう意味じゃないんだよ、青ちゃん。


「もう大丈夫そうかな」


 一通り塗ったあたりで青ちゃんむくりと起き上がる。


「今度は、私がやってあげる」

「いやぁ……俺は、背中は……」


 腰が引けているこの状態でうつ伏せになったら、たぶん大事なモノが折れる。


「背中だけ焼けたら変だから。――ささ、お客さん、寝転んでください」


 店員と客コントをしようとする青ちゃんに付き合うことにした。

 青ちゃんが寝転んでいたばかりの場所に、俺もうつぶせになる。

 腰は引けたまま。


 それに気づかない青ちゃんは、ぬりぬりとクリームを塗りはじめた。


「どうですかー? かゆいところ、ないですかー?」

「先生、それ美容院」

「あ、ほんとだ」


 天然が炸裂し、青ちゃんが自分でけらけらと笑う。


 その拍子に、つるん、と手を滑らせた青ちゃん。


「はにゃ!?」


 俺に覆いかぶさるようにして倒れてきた。


 水着一枚だけを隔てた胸が、ぽよん、と俺の背中に押しつけられた。


「ごめんね。滑っちゃった」

「いえ。ありがとうございます」


 紳士顔で俺はお礼を言ったけど、青ちゃんは何も返事をしない。たぶん「??」って首をかしげているんだろう。


 そのまま胸でクリーム塗ってください、と言う勇気もない俺は、青ちゃんに身を任せることしかできなかった。言ったら、埋められそう。

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