第27話何周もしている男の知識量


「ぎゃあ!?」


 冒険者の誰かが下手こいたらしく、悲鳴が聞こえた。


「きゃぁぁぁ――!?」

「うわぁああ!?」


 別の場所からも恐怖に染まった声が次々に上がる。


 何かあったのか?

 目の前のカニの攻撃を回避して青ちゃんを見ると、目が合った。


「湊くん! 様子が変!」

「変って、どういうことですか?」

「楽ちんだった戦闘が、苦戦するようになってて」

「苦戦……?」


 パーティを一組気にしながら見ていると、カニ一体にかなり苦戦を強いられていた。


「あれは――」


 そのカニは、特別というわけでもリーダー格でもなかったのだが、よく見ると物理の攻防が上昇するスキルがかけられていた。


 支援型スキルでバフをかけている存在がいるな――。


 バフを得たカニの数は徐々に増えていき、相対するパーティが苦戦していた。


 このクエストを受ける冒険者のレベルで、大勢のカニ――しかもバフあり――と戦うのは骨が折れるだろう。


「おい、ソロで戦ってるあんた! カニどもが強くなってる! 早く逃げたほうがいい!」


 俺に声をかけてくれた男が、カニの攻撃を受ける。


「ぐッ、ぉぉお……! この、カニ野郎め!」


 盾でどうにか防いでいると、パーティの後衛が魔法スキルで攻撃をはじめた。


「前衛は防御と回避に徹してください! 後衛は攻撃だけに集中してください!」

「え? ああ、おう! あんたはさっさと逃げろよ?」


 答えずに俺はその場を立ち去り、他のパーティの様子を見て回った。


 真っ先に目に入ったのは、一人で杖を振り回している男だった。


「大丈夫ですか?」

「見てわかるだろ! 大丈夫じゃねえよ! 前衛がやられちまって、このザマだ!」

「落ち着いてください。俺がターゲットになって引きつけます。いつも通り攻撃を」

「い、いい、いつも通りって、巻き込んじまうぞ!?」

「当たりませんのでお構いなく」 


 ダダダ、と砂浜を駆け出し、一気に一〇匹ほどが俺に釣られてあとを追いかけてくる。


「当たっても知らねえからな!?」


 その群れ目がけてドォンと魔力の弾丸が放たれた。

 俺は横にステップを踏んでかわすと、真後ろにいたカニが攻撃を受けてひっくり返った。


「あのスキル――。【魔術師】ですか?」

「よくわかったな」

「今のは【バレット】ですね。【ソードランス】を覚えているはずです」

「え、あ、うん?」

「【ソードランス】は溜めると複数攻撃できます」

「え、そうなの?」

「【バレット】に威力は劣りますが、直撃後、敵は一瞬硬直します。前衛がいるパーティと合流すれば、戦闘がずいぶん楽になるはずです」

「お、おう! ありがとな!」


 では、と俺はまた走り出した。


 戦闘や使っているスキルを眺めていると、だいたい参加している冒険者のレベルは、カニのプラマイ五くらいだ。

 スキルと装備を見れば、職業がなんなのかわかる。何を覚えているのかもわかるので、アドバイスもしやすかった。


【銃剣士】と【狩人】と【白魔術師】の三人組を見かけた。


「敵は物理防御が上がっている状態です。甲羅や爪ではダメージが入りません。弱点の腹を狙いすまして攻撃してください」

「うっせえな! オレたちのやり方で戦ってんだ! 口出すんじゃねえ!」

「その通りだぜ。腹なんか簡単に狙えたら苦労しねえんだよ」


 ……この人たち、これまでこうやって敵の間合いの外から攻撃してきたんだろうな。


「クッソ、近寄んじゃねえ!」


 小銃と剣の一体型のガンブレードを男は振り回す。

 敵に接近を許したら、追い払うだけの棒になっている。

 なんてもったいない。


「死ねオラ!」


 一瞬の隙を突いて銃を撃つが、チュインと甲羅に弾かれる。

 仲間の援護した矢も甲羅を貫通せず、安っぽい音を立てて砂浜に落ちた。


「至近距離の銃撃と直後の突きがガンブレードの真骨頂です。【銃剣士】は中距離型ではなく、近接型です。ビビって中距離で銃撃だけしていても、真価は発揮されません」

「誰がビビってるだとゴラァァァアア!」


 目を吊り上げた男は、よっぽど腹が立ったのかカニに接近していった。


「撃ったあと、突く……撃ったあと、突く……撃ったあと、突く……撃ったあと、突く……」


 ぶつぶつと繰り返していた。

 なんだ。意外と素直なんだな。 


【狩人】の援護を得ながらカニに接近すると、俺が言った通り腹に切っ先を向けた。


「死ねや!」


 ガァン、と銃声が鳴るが、急所を微妙に外していた。


「撃ったあと突くぅうううううううううううう」


 男は涙目だった。

 よっぽど怖かったらしい。


 だが、そのかいあって、攻撃は急所に当たった。

 それだけじゃ今のカニは倒せない。


「全弾! 今!」


 俺が言うと、男は引き金を何度も絞り、急所をゼロ距離で撃った。


「ジャブウ……」

 とカニが消えていき、男は情けない顔を元の怒り顔に戻した。


「うわ、倒せた!? 何者だよおまえ!」

「その調子で頑張ってください」

「う~~~。ありがとな!」


 怒りながらお礼も言える器用なやつだった。


 こうして、俺は各パーティごとにアドバイスして回った。

 苦戦して焦っていたパーティたちが、俺の一言二言の助言で敵を撃破し自信をつけていく様を見るのは、玄人冥利に尽きる。

 お助けキャラになって初心者をサポートしている楽しさがあった。


 お礼を言われるあの嬉しさったらない。

 もし彼らが今後困っている人を見かけたら、今日のことを思い出して親切にしてあげてほしい。


 俺のパーティは、SP温存に戦術を切り替え、毒剣で敵を斬りつけるだけの作戦をとっていた。

 バフで物理攻防が上がろうが、毒に耐性がなければ同じだ。カニたちは例外なく【猛毒】にやられて倒れていった。


<潮崎湊は143の経験値を得た>

<レベルが1上がった>

<称号[毒使い]が[毒殺犯]に進化した>

<ワンハンドクラブから四〇〇リンを得た>


――――――――――

潮崎湊

職業:盗賊

LV:29

HP:110/110

SP:7/79

攻撃:37+15

防御:23-4

魔攻:19

魔御:18

素早さ:44+6+3+17

称号:豪胆な盗賊 執念の炎 蜃気楼 毒殺犯 エンジェルキラー

スキル:盗賊の嗜み(E-)騙す(A)火遊び(C+)盗賊の審美眼(C+)ハヤブサ(E)鋭利な一撃(E)

――――――――――

――――――――――

毒殺犯

毒の発生率がわずかに上がる。【猛毒】の効果がわずかに上がる

――――――――――


 格下相手だとスキル熟練度が上がりにくいのもゲーム通りだな。


<討伐上限に達しました>とシステム音声が教えてくれる。


「え、もう? 早すぎない!?」


 青ちゃんが驚いている。


「【猛毒】になるまで斬りつけるだけの作業ですから」


 撃破を見届けないでいいとなると、討伐の効率は段違いで上がるのだ。


「へぇ~。他の人たちは、複数人で戦ってあんなに苦戦してるのに」

「手数と毒は相性がいいんです」

「湊くんって、もしかしてすごく頭いいんじゃ……?」


 青ちゃんが尊敬の眼差しを俺に送っていた。



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