第26話SPダメージの本領


 グラハムビーチ。

 遠浅のエメラルドグリーンの海と綺麗な砂浜が特徴のスポットで、ゲームではクエストよりはバカンスや遊びで訪れるプレイヤーが多かった。


 海に面した砂浜は何キロもあり、タイミングによってはプライベートビーチになる――それがグラハムビーチだった。


「――ゲームでは、そういう海なんです」

「…………へ、へぇ……」


 超楽しみにしていた青ちゃんは、頬をぴくぴく動かして目の前の光景に引いていた。


「ジュブジ、ジュブジ――」

「ジュジュジュ」

「ジュボジュボ」


 砂浜はワンハンドクラブで埋め尽くされ、そこらじゅうでひしめき合っている。


 大量発生っていうくらいだから予想はついたが、実際見ると引くなぁ、これは。


 カニの隙間を縫うように、クエストを受けたパーティが戦っている。

 魔法を放ち、武器を振るい、一体、また一体と魔物を倒していた。


 ビーチは、無数のカニ対クエストを受けたパーティの戦場となっている。


「お、おお、おお、お……」


 青ちゃんがプルプル震えると、声を張り上げた。


「思ってたのと違う――――――――――ッッッ!」


 腹から出した大声に、俺も思わずビクっとなる。


「白い砂浜はどこ!? 海のほうにもあのカニさんうじゃうじゃいるし! ナニコレ!?」

「海浜清掃とは、上手いことを言ったもんですね」


「仕事しないと遊べないのは、この世界でも一緒なんだね……」


 がっくり肩を落とす青ちゃんを俺は励ました。


「遊べるように綺麗にしましょう」

「うん。そだね……」


 ワンハンドクラブは、中型犬ほどある大きなカニで、危険な爪(ビッグシザー)と呼ばれる大きな爪が特徴の魔物だ。

 腕が一本しかないというわけではない。


――――――――――

ワンハンドクラブ

LV17

HP:201

SP:30

――――――――――


「敵は、比較的高い物理防御を持って機敏に動き、爪で攻撃してきます。攻撃はそれだけで単調ですが、直撃を受ければ致命傷を負います」


 海のロマン砲とも呼ばれる敵だ。


「先生は、俺の視界にいる敵に一体ずつ【邪法】を使ってください。スキル発動に合わせて俺が動きます」

「了解」

「意外と素早いので、先生も周囲には注意してくださいね」

「うん。わかった!」


 それじゃあ、と俺は敵が蠢く砂浜に下りていった。

 ドォン、と音がして砂ごとカニが数体吹き飛ぶ。

 範囲魔法のスキルがある後衛がいれば楽なんだが……。

 そんなことを言ってもはじまらない。


「俺が倒せば倒すほど、ビーチが綺麗になって、青ちゃんには称号のおかげでお金が入る。クエストの報酬も多く入る。青ちゃんは水着を買って綺麗なビーチで遊ぶ。ウィンウィンだ――!」


 やる気出てきた……!


 目の前のカニに【邪法】が使われた。


 俺は【盗賊の嗜み】を発動させる。


<ワンハンドクラブから[カニの甲羅]を盗み、SPに28のダメージを与えた>


「ジョボ!? ボボ!?」


 動こうとしたカニが金縛りにあったようにぴたりと静止した。


 危険な爪での攻撃は、通常攻撃ではなくSPを消費した攻撃。

 SPダメージを与えるようになった俺の【盗賊の嗜み】を食らえば、一発で行動不能になる。


「オラオラオラララララ!」


 あとは毒剣で切り刻み、【猛毒】にする。

 HPは半分くらいしか減ってないけど、毒殺を見届けずに、次の標的を襲う。


 同じやり方で二匹目を攻撃していると、システム音声が聞こえた。


<潮崎湊は143の経験値を得た>

<ワンハンドクラブから[カニの足]と四〇〇リンを得た>


 一匹目を倒したようだ。

 このやり方なら時間もかからないし一番効率がいい。


 二匹目を倒し、すぐに三匹目を攻撃する。その間にやはり二匹目が毒で死に、システム音声が聞こえた。


【邪法】と【盗賊の嗜み】が合わさると、「盗む」の成功率は五割近くあった。

 レアアイテムを持つ敵がいれば【盗賊の審美眼】で盗むアイテムが選べる――。


 やっぱり【盗賊】と【呪術使い】は、きちんと育て上げればかなり強い。

 貴重なアイテムを得ることが出来て、現レベルには不相応な強装備が作れる。


「ジャジー! ジャアジ!」


 カニたちのリーダーらしき個体が俺目がけて突進してくる。

 リーダー格の個体で、似たような敵は別に数体がいた。


「あいつは、たしか――」


【邪法】のスキルがカニリーダーに使われる。


 俺は【盗賊の審美眼】と【盗賊の嗜み】を同時に発動させた。


<ワンハンドクラブから[カニの甲羅]か[カニの足]か[ワンハンドクラブの大爪]を盗み、SPに28のダメージを与えた>


 よし、レアアイテムを盗めた。

【ワンハンドクラブの大爪】は 以前倒したアラクネから得た【アラクネの毒針】のような、固有種族からのみ得られる素材だ。


 加工したら俺にとっては非常にありがたい効果を持っている。


「ジャジャジャ!」


 カニリーダーが自慢の大爪を振るうが、【スカイギア】を持つ俺にはかすりもしない。

 攻撃できたのはその一度きりで、以降は他のカニと同じ運命を辿った。

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