第24話素早さの追求はすなわち火力の追求
「この【フレキシブルハンド】があれば、他の職業でしか使えない武器が使えるようになるんだね」
ふむふむ、と青ちゃんは改めて俺に確認する。
「はい。【天空の斧】だと振りにくいでしょうが、軽くて扱いやすい細剣(レイピア)なんか先生にぴったりだと思います」
「そうすれば、私は一人でスキルを使いながら、武器で敵を倒せる、と」
「……その通りです」
俺は不穏な何かを感じながら首肯すると、にぱっと青ちゃんはいい笑顔をして言った。
「じゃあ私一人でやっていけるね!」
「えっ。え、え――?」
「お金もあるし、アドバイス通り細剣をお店で買えば、湊くんなしで全然大丈夫だね!」
「え、あ、はい……」
「これまでありがとう。じゃあ、元気で――!」
手を振って青ちゃんは俺の下から去っていった。
「っていう夢を見たんです」
「何それ」
俺の深刻な顔がよっぽどおかしかったのか、青ちゃんはプククと笑っている。
「けど、その通りなんで……ああ言われたら、俺は引き止められないなって」
「あっ。マジでヘコんでる?」
そりゃそうだよ。
青ちゃんは俺に、勝手にいなくならないでって約束させた。
なのに、強アイテムを持っているとわかったら手の平を返して俺を捨てて去っていったんだ。
「ショックでしたね……ガチで」
定宿のそばにあるカフェで、俺と青ちゃんは名物のパインジュースを飲んでいた。
一週間の冒険休みが明日で終わろうとしていた。
「私、そんな薄情なことしないよ? 湊くんに今までたくさん親切にしてもらったし、これまで助けてもらった分、私も助けてあげられたらいいなって思ってるんだから」
「先生……」
「湊くんは、私のことそんなに、す…………」
にやりと笑ったかと思ったら、「す」の口のまま青ちゃんは徐々に顔を赤くしていく。
「す……なんですか?」
「私のことすん配に思ってるんだね」
「スンパイ?」
「心配」
私のこと好きなんだー? ニヤニヤってからかってくるのかと思ったら違ったらしい。
「良い武器や防具で勝つのも、ゲームの醍醐味なので色んな武器を試すのも楽しいと思います」
職業別の運用法やステータスなんていう細かい話ではなく、良い武器で殴り、良い防具で守る――とてもシンプルにゲームを楽しめるやり方だ。
「自分で考えた装備が敵にかなり効果的だったら、やっぱり嬉しいですから」
そんなもんなんだー? と青ちゃんはふわっとした相槌を打った。
店を出ると、装備屋に向かうことになった。
「冒険の準備しないと。明日目いっぱい遊ぶために」
「そうしましょう」
青ちゃんの冒険へのモチベーションは、俺が心配したほど下がったわけではなさそうだった。
装備屋に入ると、俺は真っ先にカウンターの店主に素材を見せた。
「【妖精の羽】【邪な法衣】【薄汚れた羽】で【妖精の外套】をお願いしたいのですが」
「オーケー、任せときな」
主人が素材を持っていき、しばらく待つことになった。
後ろにいた青ちゃんは、真剣な眼差しで武器を掴んで軽く振っている。
「ハイエンジェルリベンジャー戦では手を借りましたけど、俺は、やっぱり先生には後方で支援してもらいたいです」
「危ないことをさせたくないってことでしょ? その優しさは嬉しいんだけど、私も湊くんの足は引っ張りたくないの。あ、出しゃばるつもりは全然ないから安心して」
慌てて青ちゃんは手を振って、てへへ、と照れくさそうに笑う。
「万が一のときに、湊くんが切れるカードでありたいなって」
「先生」
そんなに俺との戦闘のことを考えてくれて……。
好きすぎて結婚したい。
「あ、そうだ。全然足りるじゃん!」
財布を覗いた青ちゃんは、声を上げて棚の上に置いてある防具を取ろうとする。
顔を赤くしながらつま先立ちになり、思いきり手を伸ばしてプルプルしていた。裾がはだけてヘソがちらりと見える。
「……」
「湊くん、何見てるの?」
「うわあ、な、なんですか」
「取ってもらってもいい?」
「どれですか?」
「【妖精の手袋】」
お値段一五万リン。
「買うから」
「結構しますよ。余裕なくなりません?」
「また稼げばいいんでしょ」
「先生も立派な冒険者ですね」
俺は苦笑して棚の防具を青ちゃんに渡した。
――――――――――
妖精の手袋 防御+5 魔防+8 対毒B
後衛職用の装備品。
魔法耐性が高くなり、毒に耐性ができるのが特徴
――――――――――
「おーい、できたぞー」
奥から店主が注文した品を持ってきてきた。
――――――――――
妖精の外套 防御+4 魔防+10 SP+10
後衛職用の装備品。
魔法耐性が高くなり、SPの上限が増えるのが特徴
――――――――――
「私が二つとも支払うね」
と、青ちゃんは支払いを済ませ、さっそく外套を羽織り、手袋をはめた。
白い清潔な手袋には魔法陣のような紋様が浮かんでおり、同じものが外套にも描かれていた。
スーツの上着は俺が預かっている。
青ちゃんのぬくもりが手にあるというキモいことに気づいてしまって、ぶるぶると顔を振った。
「これであと三つかな?」
「はい。杖とローブと帽子です」
「よーし、頑張るぞぉ!」
武器はひとまず保留ということで、これまで通り杖を使うことにしたようだ。
次は俺の装備だ。
毒剣はこのまま使おう。毒殺スタイルは【盗賊】にぴったりだし、無効の敵や快癒させる敵がいるところには近づかなければいい。
「……となると」
【鋭利な一撃】を覚えたのなら、純粋に【素早さ】を高めるべきだろう。
陳列棚にある軽装職用の装備品を覗いても、ピンと来ない。
今よりも良い装備になるが、目が肥えてしまっている分、間に合わせの装備なら買わなくていい、と思ってしまう。
「これ、もう要らないので分解してください」
「いいのかい、ねえちゃん。これ、結構レアだぜ?」
俺が悩んでいると、青ちゃんと店主の会話が聞こえてきた。
「何を分解するんですか?」
「斧」
「へー…………え?」
「あ。ダメだった?」
「俺に使い道はないので、先生の自由にしていただいていいんですが」
「分解したら良い素材になるって湊くんが言ってたから」
たしかに言った覚えはある。
「終わったぜ」
仕事の早い店主はさっそく【天空の斧】をいくつかの素材に分解した。
「そうか、これがあったらアレができるな」
俺は青い結晶体をつまんだ。
――――――――――
魔晶核ルーンコア
希少な素材
――――――――――
「おじさん、ルーンコアとあれとこれで――」
それだけ言うと、察しのいい店主はすぐに気づいた。
「あー。はいはい。できるよ」
「お願いします」
「ちょっと待ってな」
また素材を持って店主が奥に消える。
「何ができるの?」
「【盗賊】をはじめとした軽装職には足の防具があって、【呪術使い】でいうところのマントにあたるものです。――で、今その靴をひとつお願いしたんです」
青ちゃんと雑談してしばらくすると、店主が一足の靴を手に戻ってきた。
「これで間違いないかい?」
黒をベースとしたグラディエーター風のサンダルは、まさしく俺が求めていたものだった。
――――――――――
スカイギア 防御-4 素早さ+17
空を踏むとすら呼ばれる防具。素早さが特徴
――――――――――
これですこれです、と俺は嬉しくなって思わず店主と握手してしまう。
「そんなにすごいアイテムなんだ?」
「ルーンコアが希少なものですし、このレベル帯ではほぼ手に入らないものなので。【盗賊】の俺にとっては、むしろ武器と言ってもいいですし――」
「防具なのに? ふふ。そんなに喜んでくれるなら、バラした甲斐があったよ」
青ちゃんもニコニコだった。
さっそく装備し、俺たちは装備屋をあとにした。
【ハヤブサ】で【素早さ】を上げ、【鋭利な一撃】で防御無視攻撃。
それが【スカイギア】のおかげでより火力が出るようになった。
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