第21話ハヤブサと鋭利な一撃

 俺は自分のステータスとハイエンジェルリベンジャーのステータスを思い出していた。


 幸いにも【鋭利な一撃】を覚えた。

 覚える条件は、【強奪】の熟練度MAXであること。

【強奪】による累計ダメージが七〇〇以上あること。

【騙す】の熟練度がB以上であること。

 かつレベルが二五以上であること――。たしかこうだった。


 これがあるとないとでは【盗賊】の運用に大きな差が生じる。

 誰も熱心に育成しない職業だから、知らない人は多い。知ってても、その頑張りに対して見返りが少ないのが【盗賊】の底辺職たる理由だった。


「ブォォォォオォオオオ――――ッッッ!」


 ヘルムの下で咆哮するリベンジャー。


 権杖を振ると即座にスキルが発動し、黒光りする弾丸が無数に放たれた。


「っ――!?」


 青ちゃんが驚いて硬直している。

 まずい。

「糸」を使い、青ちゃんを抱きかかえると素早く攻撃範囲から離脱する。


 ドガガガガガ――ッ、と弾丸は床や壁をえぐり取り、大きな弾痕を残した。


 危なかった。当たってたら、欠片すら残らなかっただろうな。

 状況を整理するため、柱の影に隠れる。


「先生、余力はまだありますか?」

「うん。まだSP六割は残ってる」

「上出来です」

「えへ。褒められちゃった」


 結構シリアスな戦闘中なのに、ふっと気が緩んでしまう。


「湊くん、聞きそびれたことがあって。どこかのエンジェルを倒したときに、【フレキシブルハンド】っていうのが所持品に入って――」

「え?」


【フレキシブルハンド】――レアアイテムのひとつだ。


 青ちゃんが見せてくれたそれは、まさしく本物だった。


 あ! RPで俺に何か言おうとしてたな? このことか!?


「湊くん、これどんなアイテム?」

「人によったら、まったく無駄なアイテムです」

「そっか……」


 肩を落とす青ちゃんに俺は続けた。


「けど、今の俺たちには非常にありがたいものです」

「!」


――――――――――

フレキシブルハンド

武器の職業を限定しない。武器による攻撃五〇%減

――――――――――


「本来、持てない武器が持てるようになります」

「ふんふん?」

「先生には、【フレキシブルハンド】を使って、これを――」


 俺はアークバイソンから得た【天空の斧】を取り出した。


――――――――――

天空の斧 攻撃+68 魔防+5 素早さ-7

重装系職業限定の武器

――――――――――


 半減でも装備すれば【攻撃】が三四上がる。

 さっそく青ちゃんに渡して装備してもらう。


「ん!? 重ぉぉ!?」

「でも振れるはずです」


 青ちゃんの見た目にはそぐわない、明らかに不自然で大きな斧をゆっくり担いだ。

 装備品と青ちゃんの体重なら、明らかに斧のほうが重そうだ。


「んっ――っしょ!」


 ふおん、と鈍い風の音を上げて斧を振り下ろす。


「これでいいのかな」

「十分です」


「ブァァァァオオオオオオオ――――ッッッ!」


 ついに敵に居場所がバレた。

 攻撃スキルが隠れている柱に直撃。

 凄まじい爆音が響き、柱が折れて倒れてくる。

 青ちゃんをがっしり掴んだまま「糸」で高速移動する。その場を離れる瞬間に、敵とばっちり目が合った。


「装備したけど、こんなの当てる前に敵に消し飛ばされない?」

「はい。隙もかなり大きいですし、不慣れな初心者が性能が強化された格上相手に当てるのは奇跡でしょう。近づくこともできないでしょうし」

「ダメじゃんっ」

「……でも先生、隙っていうのは作るんですよ。――俺がこうして先生の足になります。俺を信じて全力で斧を振るつもりでいてください!」

「わかった! 信じてる!」


 二人で「糸」でまた移動すると、すぐ後ろに敵の攻撃が着弾していく。


「重くない? 大丈夫?」

「重いです」

「もうっ! 軽いって言ってよっ」


 だったらなんで聞いたんだ。

 思わず戦闘から意識が逸れそうになる。半目になった瞳を大きく開いて集中しなおす。


「常に死角から。それが俺たちの正攻法です」


二、三度「糸」で移動を繰り返し、敵の視界から逃げるため大きく回り込んだ。

 初手と同様、キョロキョロしいている敵の死角から攻める。


「先生――!」

「進化スキル――! くらえっ」


 まさかと思ったが、そのまさかだった。

 青ちゃんが使ったのは【呪詛】ではなく【邪法】だった。

 続いて【変調】で効果時間を伸ばした。


「先生、アレを」

「うん!」


 加えて、敵に【鈍足】が発動した。


 俺は【ハヤブサ】を使い【素早さ】を上昇させる。

 このスキルを逃げるためや回避のためだと思っているプレイヤーは多いが、俺は違うと思う。


 敵の無防備な背中に【鋭利な一撃】を発動させる。

 キィン、とクリティカル確定音が響く。

 毒剣を振った。


<ハイエンジェルリベンジャーに79のダメージを与えた>


 よし、クリティカルが重なって大きく削れた。


「すごい! こんなに一気に!」


 驚く青ちゃん。


 敵がさすがに気づき、至近距離範囲攻撃を仕掛けてくる。

 俺たちがいる床が真っ黒になる。

 針のようなものが無数に突き出てくる攻撃魔法だ。


 一旦退避の選択肢が脳裏をよぎるが、攻撃続行のメリットを選んだ。


 サインで俺の行動を伝えると、青ちゃんが斧を重そうに振りかぶる。


 俺は【騙す】発動した。

 すぐに効果は現れ、敵の攻撃発動までの隙を作った。


「んんんんんんんにゃああああああああ!」


 変な雄叫びを上げた青ちゃんが、斧を渾身の力で振り下ろす。


 ドシュッッッ――。


「ッッッッッ――――!?」


 敵が大きくひるんだ。


 HPを確認すると、青ちゃんの一撃は三七のダメージを与えていた。


 途中だった敵の攻撃は一旦キャンセルされ、たたらを踏んで尻もちをつく。


「狙い通りだ――!」

「湊くん、これって」

「いわゆる大チャンスってやつです」 


 短時間に大ダメージを与えたときに発生する現象で、ゲーム内ではさほど珍しくない。だが、細かくダメージを削る俺たちは、これまで目にする機会がなかった。


【なまけ癖】を使ってもらい、【防御】を下げる。

 毒剣で切り刻み、細かくダメージを与える間、ハイエンジェルリベンジャーを【猛毒】状態にした。


「んんん――にゃッ!」


 再び斧で攻撃した青ちゃん。

 敵は直撃を食らい、HPを四〇減らした。

 単純な物理攻撃だと、青ちゃんのほうが俺より断然強いな。

 こうやって大きな隙を作ったり、素早く移動する足は必須だが。

 射程が超短距離の固定砲台みたいなもんだな。


 敵がひるんだ状態から回復すると、距離を取る。


 権杖で宙に何か描くと、魔法陣のようなものが浮かび、それが黒銀色に輝く。

 すると、柱以上に極太の魔法攻撃が放たれた。


 動き回り回避するのが得意な俺に、そんなタメのある攻撃が当たるはずもない。


 すぐさま攻撃範囲から青ちゃんを連れて逃れ、【ハヤブサ】を再び使う。


【ハヤブサ】は、回避や逃げるためのスキルじゃない。

【鋭利な一撃】を輝かせるためのスキルだと俺は思っている。


 三度接近し、【鋭利な一撃】を放ち、またさらにHPを削った。

 それから、何度か俺の【鋭利な一撃】と青ちゃんの物理攻撃を中心としたヒットアンドアウェイが成功する。

 その間にも【猛毒】が情け容赦なく次々にダメージを与えていく。


 そして――。


 権杖を落としたハイエンジェルリベンジャーは、ガクガクと震えて身動きしなくなると、ゆっくりと消えていった。


<潮崎湊は10050の経験値を得た>

<レベルが3上がった>

<スキル[強奪]が[盗賊の嗜み]に進化した>

<スキル[騙す]の熟練度がA-になった>

<スキル[ハヤブサ]の熟練度がEになった>

<スキル[鋭利な一撃]の熟練度がEになった>

<称号[エンジェルキラー]を得た>

<ハイエンジェルリベンジャーから[SPアップ]を二つ得た>


――――――――――

潮崎湊

職業:盗賊

LV:28

HP:104/104

SP:7/69

攻撃:33+15

防御:20

魔攻:16

魔御:16

素早さ:41+6+3

称号:豪胆な盗賊 執念の炎 蜃気楼 毒使い エンジェルキラー

スキル:盗賊の嗜み(E-)騙す(A−)火遊び(C+)盗賊の審美眼(C+)ハヤブサ(E)鋭利な一撃(E)

――――――――――

――――――――――

盗賊の嗜み

敵の所持品を低確率で盗む。

同時にレベルと同数のSPダメージを与える

――――――――――

――――――――――

エンジェルキラー

天使族を攻撃する際、ダメージが5%上がる

――――――――――

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