第19話効率とリスク


 RPで一休みして、外に出ると近辺に出現したエンジェルと戦った。

 そばにRPがあるのはこちらにとっては大きな強みで、SP消費を気にすることなく常に全力で戦えた。


<潮崎湊は580の経験値を得た>

<レベルが2上がった>


 一体倒し、余力があることを確認すると、またエンジェルを探し戦闘を開始する。


<潮崎湊は580の経験値を得た>

<レベルが1上がった>


 三体目、四体目――。

 HPを削り切ったり、毒殺したり、とエンジェルを次々に血祭りにあげていった。


――――――――――

潮崎湊

職業:盗賊

LV:23

HP:79/79

SP:10/48

攻撃:22+15

防御:14

魔攻:11

魔御:10

素早さ:31+4+3

称号:豪胆な盗賊 執念の炎 蜃気楼 毒使い

スキル:強奪(A)騙す(B)火遊び(C+)盗賊の審美眼(C)ハヤブサ(E-)

――――――――――

――――――――――

ハヤブサ

【素早さ】を一定時間ごくわずかに上げる

――――――――――


【ハヤブサ】は一九レベルで覚えたスキルだが、まだ正直使いどころがない。

 だが、次で確かアレを覚えるはず。そうしたら……。


「なんか、あの敵たちが気の毒になるくらいバッサバッサと倒せたね」

「俺たちがSPを気にせずに戦ったら、エンジェルはもう敵ではないですね」

「だね! あんなに怖かったのに、今はもう慣れちゃったし」


 もう少しレベルを上げてもいいが、これ以上は時間効率が悪い。

 格上のほうがレベルが上がりやすいし、ずっと同じ敵だと戦闘が単調になり油断も生まれやすくなる。


 効率とリスクを天秤にかけると、ちょうど釣り合いが取れるのがこのレベルだろう。


 俺たちは再びRPに戻り、ソファに並んで座りステータスを見せあう。


「……湊くん、どうかした?」

「何がですか?」

「さっきからずっと目が合わないような」

「そ、そんなことないですよ」


 裸を見てしまったせいで、青ちゃんが視界に入ると服の下がフラッシュバックする、なんて言えるわけがなかった。


 そうかなぁ、と青ちゃんは不思議そうに首をひねる。俺は慌てて話題を変えることにした。


「先生も順調に成長してますね」


――――――――――

中林青葉

職業:呪術使い

LV:23

HP:55/55

SP:89/89+3+5

攻撃:15+1

防御:22+4

魔攻:15+1

魔御:26+4+2

素早さ:13+6

称号:ハードラッカー

スキル:呪詛(A+)変調(C)不協和音(B+)鈍足(D-)なまけ癖(E)

――――――――――

――――――――――

鈍足

一定時間対象の【素早さ】をごくわずかに下げる

――――――――――

――――――――――

なまけ癖

一定時間対象の【防御】をごくわずかに下げる

――――――――――


「熟練度が上がったら【呪詛】が【邪法】に進化します。なので、あと少しですね」

「どう変わるの?」

「不運の強化と継続時間上昇、あとは、デバフ性能強化の効果があります。今覚えている【鈍足】や【なまけ癖】の効果がより上がります」


【呪術使い】を運用する上で【邪法】は必須スキルだった。ただ、よっぽど【呪詛】を使い込まないと【邪法】には進化しないので、途中で諦める人は多い。

 加えて、脇役に徹して味方をサポートしようって人はゲームの中にはあまりいないというのもある。

 初心者を助けてあげようっていう親切なプレイヤーのサブキャラくらいなもんだ。


「【邪法】って結構強い?」

「他の同レベルの職業が使えるスキルと比べると、やっぱり大したことはないです」

「そっかあ」

「でも、【盗賊】がそばにいれば別です。最大限活用できますから。それに、能力を直接下げるスキルも覚えましたし、いよいよ【呪術使い】の本領発揮といったところです」

「だ、だよね!? すごく役に立ちそうな気がしたもん!」


 自分が強くなっているという実感は、ゲームをプレイしていて何よりも面白く楽しいものだと俺は思う。青ちゃんもそれを感じているようだった。


 それから、俺はボスの情報を青ちゃんに教え、作戦を練っていった。


「あの――」

「先生――」


 しゃべりだしが被ってしまい、声が重なった。

 青ちゃんがどうぞどうぞ、と譲ってくれたが、大したことを言うつもりはなかった。


「頑張りましょうね。倒せば、妖精シリーズを作成するための素材がドロップします」

「そうなんだ! やる気出てきた……!」

「その意気です」

 微笑ましく思っていると、真面目な顔をして青ちゃんは言った。


「ねえ、湊くん。何があってもいなくならないって、誓って? 私を置いていかないって。私のことを思って、とか、そういうのいらないから。だから、いなくならないって、誓ってほしい」


 青ちゃんは俺に左手をすっと差し出した。細い指にはリングがハマっている。


「勝手にいなくなるつもりはありません」

「じゃあ、き……キス、して?」

「え」


 青ちゃんは真顔だった。

 ここまで言われてしまったら、しないわけにはいくまい。

 俺のファーストキス……相手が青ちゃんとか最高すぎる。


 俺が顔を近づけていくと、ぎゅいいいい、と押し戻された。


「な、なんですか!?」

「違う違う! く、口じゃなくって手っ! 手のほう!」


 なんだ、手か。

 俺のキス顔がキモすぎて拒否られたのかと思った。


「こういう誓いってだいたい手でしょ?」

「知らないですよ、そんなの……」

「口のキスなんてまだ早いよぅ……もう」


 ぼそっと独り言をこぼしたけど、俺は耳ざとく聞いていた。


 ま、まだ……!? じゃ、いつかはしていいってこと!?


「湊くん、目、怖いよ? キマってる」

「そんなことないです」


 おほん、と青ちゃんが仕切り直す。


「じゃ、改めて。誓ってくれるなら、手に口づけを……」

「……はい」


 指先をそっと握り、手の甲にキスした。キザな感じがして俺のキャラじゃないよなぁ。笑われてないかなぁ、と心配になって視線を上げる。


「~~~っ」


 青ちゃんは湯気を頭から出して大照れしていた。

 何かを堪えるように、ぎゅっと胸元を掴んで目を伏せている。

 自分でやらせておいて。……なんて可愛いんだ、この人。

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