第15話中林先生は潮崎くんに口説かれた


 アークバイソンを撃破し、俺はふう、と大きく息を吐いた。


 敵の攻撃パターンを知っているとはいえ、ワンパン即死は相変わらず。

 プレッシャーも恐怖もゼロではなかった。


「湊くん!」


 青ちゃんが駆け寄ってきた。尊敬の眼差しを向けられている気がする。


「一人であんな強敵を倒すなんて……!」

「一人じゃないですよ。先生のスキルが大ハマりしてたし――」


 弱気になって恐怖に呑み込まれそうになったとき、青ちゃんの声援がふと耳に入った。


「先生が応援してくれたから」

「そんなの全然大したことじゃないよ」


 頑張れ、負けるな――。

 応援文句として陳腐かもしれないけど、たったそれだけで俺はものすごく励まされていた。

 戦闘中の支援もそうだし、精神的なよりどころであり癒しでもある青ちゃん。

 役に立ってないはずがない。


「俺にとっては大したことです。憧れの女性に応援されたら、男子は頑張れるもんなんですよ」

「……憧れの、女性?」


 青ちゃんが自分を指さして目をぱちくりさせる。


「はい」と俺がうなずくと、ゆっくり頬が染まっていった。


「そ、そうなんだ……」

「この先、しばらく戦闘はありません。城下町があるので、そこで体を休めてから天空城へ向かいましょう」

「あ、うん……」


 まだホワホワしている青ちゃんは、ぼんやりとしているようだった。


「行きましょう。次の挑戦者が壁の外で待っているみたいですし」


 おほん、と青ちゃんはわざとらしい咳払いをする。


「み、湊くんって結構口説くの上手なんだね? そうやって他の女子にも言ってたりするんでしょ?」

「学校での感じでわかるでしょう。俺がそんなタイプに見えますか? ああいうの、はじめて言いましたよ」


 大きな戦闘が終わった解放感で、つい口が滑ってしまった。でも思ってることだ。


「……っ」


 何も言わない青ちゃんは、ぷすぷす、と白い煙を頭から出してオーバーヒートしていた。


 写真に撮っておきたいくらい可愛い。


「はじめて、なんだ?」

「……はい」


 そんなに照れられると、こっちまで照れてしまう。


「……わ、私も、はじめて言われました」


 なんで敬語?


「意外です」

「そ、そうかな……?」

「ま、まあ、ともかく出ましょう」


 外のパーティにじいっと見られているので、圧を感じた俺は青ちゃんの手を引いて踊り場をあとにした。


 ……カップル冒険者って変な括り方をされるのも納得だ。






 天空城の城下には小さな街があり、ダンジョンに向かうための準備ができる店が一通りあった。


 山道を登ってきたこともあるし、戦闘の疲労もあったので、一泊することにして宿屋に入った。


「二部屋お願いします」


 青ちゃんが宿屋の主人に言うと、「はいはい」と主人は部屋の鍵を渡してくれた。


「あ、私出すから湊くんはお金出さなくていいよ」

「え。そうですか?」


【ハードラッカー】の称号により、青ちゃんが【呪詛】を使い俺が【強奪】を成功させると、青ちゃんにお金が入るようになっている。だから支払おうとしているのはわかる。


 確認なしで二部屋って言われたことに、若干の寂しさがあった。

 俺、なんかしたかな……。

 いや、二人とも懐に余裕が出てきたことは歓迎すべきことだし、青ちゃんが代金を支払ってくれるのも、ありがたいっちゃありがたい。

 男と二人でひとつのベッドを使うことに抵抗がある――としても、これまで何度も同じことをしている。今さらというのも、引っかかる。


 主人の後ろをついていき、部屋に案内された。


「あの、先生」

「食事の時間まで自由行動ね」

「え、あ、はい」

「じゃあ」と青ちゃんは向かいの部屋に入ってしまった。


 ……青ちゃんの態度がよそよそしい。

 目が全然合わないし、話をしようとしたら遮られた。

 これは、俺がなんかやったっぽいぞ?

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