第10話合成した新武器


 アラクネを撃破した俺と青ちゃんは、休憩を挟み街の冒険者ギルドに戻ってきた。


「クエスト『人面グモの討伐』達成を確認いたしました。こちら報酬の六〇〇〇リンです。お受け取りください。他、洞窟の主アラクネの撃破も確認いたしました。報奨金八万リンをお受け取りください」


 ありがとうございます、と俺と青ちゃんはそれぞれ報酬をもらう。


「アラクネ撃破と先のクエスト達成により、お二人の冒険ランクはEに、パーティランクはFとなりました。おめでとうございます」


 受付嬢に会釈して、俺と青ちゃんは冒険者ギルドをあとにした。


 討伐の証となる毒針は、青ちゃんは売り、俺は素材として使うことにした。

「毒針を盗むつもりだったんだ?」

「はい。倒せばドロップするのはわかっていたんですが、倒せる確証がなかったので」

「おかげで、お金たくさん増えたね」

「はい。これでしばらく食べ物と宿の心配は要らないでしょう」


 とはいえ、ニートしてたら二週間ほどで消える程度の額だ。


「パーティ用のクエストもこれから受けられるようになりますから、できるクエストの幅が広がりました」


 割のいいクエストは頭に入っているので、安全かつ、短時間で効率よく稼げるものを中心にやっていけば、衣食住には困らないで済む。


 青ちゃんへのチュートリアルはこんなもんでいいだろう。


「この世界のことはだいたいわかってきましたか?」

「うん。おかげさまで」

「もし、先生が望むなら今後は別行動してもいいと俺は思っています」


 あくまでも青ちゃんは、この世界のことがわからないから俺と行動を共にしていただけ。あの段階では他に道はなかったが、勝手がわかってきたのなら、別れる選択肢があってもいいと思った。


 意外な提案だったのか、青ちゃんはきょとんとして首を振った。


「ううん。しないよ。お邪魔でないなら、まだ一緒に……い……てもいいよ?」


 目をそっとそらしながら、ごにょごにょと言う。


「先生、心配しなくても【呪術使い】は、街やダンジョンを間違えなければそれなりに働きどころがある職業なので、俺と別れたからって仕事がなくなるわけじゃないですよ」

「そうなんだ? でもまあ、生徒の監督するのは教師の仕事っていうか……」


 まだもにょもにょと聞き取りにくい音量でしゃべる青ちゃん。

 俺と目が合うと、うっすらと頬が赤くなった。


 はっと俺は気づいてしまった。


「先生、俺と一緒にいたいってことですか!?」


 嬉しくなってずいっと迫ってしまうと、青ちゃんが顔を背けた。


「違っ……そうじゃないけどぉ」


 なんだかモジモジしている青ちゃん。


「じゃ別行動をとりましょう。活躍どころが俺と違って全然ありますし、俺の都合で縛りたいわけじゃないですし」

「そうじゃないって言ってるじゃん」


 街の往来で大声でやりとりしたせいで、道行く人がこっちをちらちらと見ていた。

 困ったように顔をしかめる青ちゃんは、意を決して口を開ける。


「み、湊くんと、一緒に、いたいってこと……」


 顔を真っ赤にした青ちゃんは、聞き取れるかどうかギリギリの小声でつぶやく。恥ずかしさのせいか、うっすらと涙目になっていた。


「先生――」


 戦闘後のノリで抱きしめそうになると、青ちゃんは体をくるりと翻した。


「こっ、この話もうやめっ。今から私ちょっと行きたいところあるから、ま、またあとでねっ」


 そう言うと逃げるようにしてどこかに行ってしまった。


「青ちゃん、俺と一緒にいたいのか」


 素直に嬉しい。

 邪魔なはずがないし、青ちゃんは俺がこの世界で生きるモチベーションみたいなところがある。

 あんな提案をしたけど、冷静になって考えれば、別れたあとに青ちゃんの身に何かあったら、俺はすごく後悔しただろう。

 流れの都合で半強制的に俺と組んでいたから、本当のところどう思ってるんだろうって気になっていたけど、良かった。安心した。


 青ちゃんがどこに行ったのか気になるけど、俺もやることがあったので鍛冶屋を目指す。


「いらっしゃい」


 俺は鍛冶屋の主人に素材を渡した。


「【アラクネの毒針】と【突き刺さりし刃】で合成をお願いします」

「ははぁ。お兄さん珍しいな。【盗賊】かい?」

「はい」


 俺の戦闘スタイルを主人は見抜いたようだ。


「他の前衛職からすれば邪道なんだろうが、【盗賊】でアレなら王道も王道。これに気づくとはねぇ。……見たところ駆け出しって感じだが、良いセンスしてるよ」


「そんな褒められるようなことでは……」


「いやいや。【盗賊】ってほとんど死んじまうだろう? でなけりゃケチな稼ぎ方をするしかない。だが、お兄さんは違う。明確な戦闘スタイルがあって【盗賊】の長所を最大限活かそうとしてる」

「ありがとうございます」

「あんたみたいな人、そうはいない。……っと、長くなっちまってすまないね。注文通り、作ってくるよ」


 ニカっと笑って主人は奥に消えていく。


 あの合成武器を早めに装備できれば、効率的に戦闘を進められる。

 格上相手もでもガンガン戦っていける。

 主人が言ったように、他のアタッカーやタンクの前衛職では不要な力だが、【盗賊】であれば非常に重要な要素となってくる。


「お待たせ。出来たよ」


 戻ってきた主人がホルスターに入れた武器をカウンターに置いた。


「手間賃合わせて一万リンってところだが、応援させてほしい。九〇〇〇リンでいいよ」

「いいんですか?」

「いいってことよ。仕上がり具合、見てやってくれ」


 俺はうなずき、武器をホルスターから抜いた。


――――――――――

アラクネの毒剣 攻撃+15

与ダメージ5%減

低確率で対象を毒状態にする

――――――――――


 ダガーより少しだけ長い剣で、全長はだいたい腕の長さの半分くらいだ。

 柄は黒く非常に地味。鍔はなく、銀の刀身は光の具合によっては薄緑色がかっているように見えた。

 ぐっと握り込むと、刃が淡く光る。


【アラクネの毒剣】は、他の前衛職でも使うことができる武器だ。

 だが、与ダメ減は嫌がられるので、入手しても実戦で使う人は少ない。彼らにはもっといい武器が他にあるからだ。


 だが、【盗賊】にとってこの剣は現時点で最良の武器――。


 お代を払って、俺は【アラクネの毒剣】を装備した。

 鞘ではなくホルスターなのは、他の短剣にも対応できるからだろう。


「ありがとうございます。大切に使わせていただきます」

「おう。また来てくれよ」


 俺は鍛冶屋をあとにした。


 火傷。

【≪不滅≫の粘糸】による移動と高速回避。

 そして、毒。



【盗賊】としては非常に良い仕上がりになってきた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る