第11話青葉と妖精シリーズ
湊と別れたあと、青葉はさっきのことを思い出していた。
「あんなこと言わさないでよぅ……」
うぅぅぅ……、とまだ顔を赤くしている。
「て、てか、一緒にいるのが嫌だったらぎゅってしたりしないし……」
恋愛未経験な自分のことを棚に上げ、「んもぅ」と嘆息する。
洞窟内では、「糸」の移動でがっしりと体を抱き寄せられた。戦闘中は相変わらず頼りになるし、強敵とされた相手にも危なげなく勝利した。
息を乱しながら、やりきった達成感に満ちた表情は、完全にカッコよかった。
問答無用で胸がきゅんとした。
「いやいやいやいや……生徒だしね。そういう一面があったってことで、まあまあまあまあ……」
思ったとしても簡単に認めない青葉だった。
潮崎湊は、目立たないわけでもなく、目立つわけでもない平均的な生徒だった。
英語だけは苦手なのか、放課後に補習授業をしていると、二人とも英雄としてこの世界に召喚されてしまった。
湊は青葉にとって、良くも悪くも思っていない生徒Aでしかなかったのだが……。
「湊くんの足だけは引っ張りたくないな……」
役立っていると湊は言ってくれるが、状況によっては自分のことが枷になるときもあるだろう。
青葉は一度行ったことがある装備屋に向かって装備を整えることにした。
幸いにも資金に余裕がある。
……青葉は後ろからスキルを使っていただけで、大事なところは全部湊がやってくれていので、撃破時の報酬などが二等分されているのも少し申し訳なく思っていた。
「あのー、初心者の【呪術使い】用の装備ってありますか?」
「はいはい、【呪術使い】ね。姉ちゃん、珍しい職業なんだねぇ」
「そうみたいですね」
店員に予算を告げて、装備品をいくつか用意してもらった。
「攻撃スキルを覚えないからなぁ。ならもう物理攻撃でパーティに貢献できるようになるっきゃねえ――ってことでこいつはどうだ」
――――――――――
石の戦棍 攻撃力+15 素早さ-3
――――――――――
「その手がありましたか」
青葉が思わず膝を打つと、出してもらった武器を手に取ってみる。
「重たっ!?」
「慣れだよ、慣れ」
「そ、そんなもんですか?」
「値段は四〇〇〇リン」
「ううん……【素早さ】が下がるのか……」
湊は、洞窟からの帰り道、【妖精のブーツ】のおかげで楽に攻撃が避けれたはず、と言っていたし、青葉もそうだと思う。
なので、【素早さ】が下がる装備はナシ。
ずっとスーツ姿で、履き替えた【妖精のブーツ】だけが浮いていたので、武器よりも防具回りを買うことにした。
街行く魔法使いは、みんな個性的だったり可愛いかったりしたので(私もああいうの着れるのかな?)と常々思っていた。
「【妖精のブーツ】に合わせたい? 【妖精シリーズ】で揃えたいってことかい?」
「なんですか、それ」
「【妖精の魔杖】【妖精のとんがり帽子】【妖精の外套】【妖精の手袋】【妖精のブーツ】これらすべてを装備したときだけ、ステータスボーナスが入るんだ」
へえええ、と青葉は感心して声を上げた。
「【妖精の手袋】だけうちは置いてるんだが、値段がな」
一五万リン。今日の予算の一〇倍だった。
「たっかっ!?」
驚いて目がこぼれそうになる青葉だった。
「ほら、ちょうどいいところに」
店主が小さく目配せすると、【妖精シリーズ】を装備した人が偶然店にやってきたところで、青葉はバレないようにガン見する。
全体的に白と黒のシックなオトナな風貌で、とんがり帽子がアクセントかつ、魔法使い感を現していて可愛い。
もっとファンシーな外見になるかと思ったが、予想外だった。
「良い。とっても良い……! 店員さん、私もああなりたいです」
「冒険を頑張ることだな」
「……ですよねぇ」
ただ湊にくっついて生活するだけだった青葉にも、【妖精シリーズ】を揃えるという目標ができた。
ふと、青葉の目にカウンター脇に置いてあったネックレスが映った。
――――――――――
魔石のネックレス SP+3
――――――――――
アラクネの戦闘ではSPがなくなった。
今後もああなると、湊の期待に応えられなくなってしまう。
「それは、三万リンだね」
「買います。下さい」
「予算越してるけど、いいのかい?」
「はい。いいんです」
「オトコのためか」
ふと湊の姿が真っ先に思い浮かび、それをかき消すように声を上げた。
「ち、違いますっ」
「はいはい」
店主にニヤニヤされた。
青葉は代金を支払いネックレスを装備する。
これが、湊を守ってくれるお守りになると信じて。
店を出て湊を探そうとすると、すぐに見つけた。
青葉は思わず笑顔になってしまう。
「湊くーん!」
「あ、先生。良かった、すぐに見つかって。待ち合わせ場所決めてなかったから見つけられないかと思いました」
「私がいきなり別行動しちゃったからだ。ごめんね」
「いえいえ。食事にしましょうか」
「私も言おうと思ってた」
「気が合いますね」
「…………かもね」
ついゆるんでしまう表情を隠そうと、隣に並んだ湊の反対側を向く。
「今日は私がおごるよ」
「いいんですか?」
「うん。【ハードラッカー】と湊くんのおかげで、成功するたびに私にお金がチャリンチャリンってね」
「そういえばそうでしたね」
「それに、生徒と毎回割り勘してるってのもオトナとしてどうかと思うし」
「気にしなくていいのに。けど、そういうことなら遠慮なく」
何を食べようか、なんて言い合いながら、街をぶらぶら歩く。
思えば、こっちに来てからこんな時間を過ごしたことがなく、海外旅行しているみたいで歩くだけでも新鮮で楽しい。
知らない街でデートしているみたいで、心がムズムズする。
【妖精シリーズ】のことを湊に言うと、大きく賛成してくれた。
「装備を集めるのも冒険です。俺も協力します」
「ありがとう」
敵は気持ち悪かったり臭かったり、嫌なこともあるが、湊とのこの生活自体、青葉は気に入りはじめていた。
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