第6話レアアイテムドロップ


 冒険者になった翌日。

 冒険者ギルドでクエストを受けた俺たちは、森の中にある洞窟にやってきていた。


「暗くてジメジメしてなんか変なにおいもする……」


 さっそく後ろにいる青ちゃんから不満が聞こえた。


「我慢してください」


 本来の冒険者なら、もっと森で討伐クエストや採取クエストを繰り返しながら、レベルやスキルを上げて、貯めたお金で装備を買って強くなっていくものだが、それは使い勝手のいい職業を選んだ初心者の正規ルート。


【盗賊】が同じことをやっても、時間がかかってしまい効率が悪いのである。

 なので、こうして背伸びとも言われる推奨外クエストの【人面グモの討伐】を受け、洞窟にやってきていた。


 俺たちのレベルでは、非常に危険なエリアとなっている。


「この奥にいる魔物から大事なアイテムが盗めるんだっけ?」

「倒したらかなりの報奨金がもらえますが、盗むのが目的なので、用が済んだら倒さずに帰りましょう」

「大丈夫かなぁ……。私たち、ここ入っちゃダメなんでしょ?」

「推奨されてない場所への立ち入りは、無視すると大変なことになりますね」


 初心者で迷い込んでしまうと、大抵ボコボコにやられてしまう。


「私、初心者以下なんだけど」

「頑張りましょう」

「うひ~、精神論だ……」


 最奥にいるのは、アラクネという人間の下半身が蜘蛛になっている魔物だ。レベルは14。今5しかない俺たちが敵う相手ではない。

 到達する頃には10になってそうだが、やはり格上だった。


 洞窟を歩いていくと、暗がりから人が顔を出した。


「あ、他の冒険者も来てるんだ?」

「違いますよ、先生」


――――――――――

人面グモ

LV7

HP21

SP10

――――――――――


「ぎゃぁあああ!? キモぉぉぉぉぉぉ!?」

「クエストの対象です。やりますよ!」


 青ちゃんは身震いすると、岩陰に移動し配置を整える。

 現状でも十分格上なので、やはり油断はできない。


 青ちゃんに【呪詛】を使ってもらい、俺はダガーで斬りつける。びしゅう、と青い血が吹き出て、人間の断末魔みたいな声が響いた。


「ギャァァァアアア!?」


 隙を逃さず【強奪】を使う。

 初手はミス。連続で使用すると、チャリンとお馴染みの音が鳴った。


「グギャアァ!?」


 成功すればレベルと同じダメージが入るのも【強奪】の特徴だった。


<潮崎湊は[粘糸]を盗んだ>

 防具作成時に大量に必要となる素材だ。


 敵がモーションに入る。

 糸を吐き出す攻撃の動きで、予測済みだった俺はあっさりと回避する。

【素早さ】が装備品のおかげもあって上昇しているので、回避行動はかなり余裕があった。


 この身軽さなら、もっと上の敵の攻撃もかわせるな。

 SP温存のため青ちゃんの支援は一旦ストップ。あらかじめ決めていたハンドサインでそう伝える。


 俺は人面グモをダガーで何度も斬りつけ、ようやく倒した。


<潮崎湊は63の経験値を得た>

<レベルが1上がった>

<人面グモからと[《不滅》の粘糸]と七〇〇リンを得た>


 お? ぉぉぉぉぉおおおおおお?

 レアアイテムドロップした!?


「やった、レベルアーップ!」


 青ちゃんが後ろでいえーい、と喜んでいる。

 正直、今レベルなんてどうでもいい。


「アラクネがいるのは屋内だよな……。もしかすると勝てるかも……!」

「湊くん、どうかした?」

「レアアイテムがドロップしたんです。ほら、これ」


 所持品の【《不滅》の粘糸】を見せる。

【粘糸】と違い、リストバンドのような形状になっており、手首にはめて使う便利アイテムだ。


「レア、うん? あ、そう」


 いまいちなリアクションなので、装備して、目の前で使ってみせた。


 ビュルン、と白い糸がリストバンドから飛び出て壁に張り付いた。


「ね! ほら、すごいでしょ!?」


 ビュルン、ビュルン。


「……なんか、ヤだ」

「え?」

 青ちゃんは生理的嫌悪感を露わにして眉をひそめている。

 レアアイテムがドロップして、俺はこんなに興奮してるっていうのに温度差がすごい。


「なんか、いやらしい……」

「いや、そういうアレじゃなくて! アレだと思うほうがエッチですよ」


「わっ、私そういうふうに見てないもんっ!」


 ぷりぷり、と青ちゃんが怒ってしまった。

 クモの糸だって言ってるのに、想像力が豊かすぎるだろう。

 ネットでは「手首のチンチン」だの「射精」だの言われてネタにされてたのはたしかだけど。


 張りついた糸をぐっと引っ張っても簡単に取れない。


「これで移動すれば、かなり楽できます」

「えぇぇ~。こんなので移動ぉ?」


 すっげー嫌そうだった。


「こんなのって……」

「どうやったら移動できるの?」


 まあいい。

 一回試せばクセになるから。

 問答無用で、俺は青ちゃんの腰をぐっと抱き寄せた。


「きゃっ」

「いきます」


 洞窟の天井に【≪不滅≫の粘糸】を飛ばし、付着させる。


 ぐっと引っ張って取れないことを確認すると、糸を縮ませると同時にジャンプする。


 振り子の要領で俺と青ちゃんは洞窟内を猛スピードで三〇メートルほど飛んだ。


 青ちゃんに怪我がないようにしっかりと抱きしめて地面に着地した。


「っ……」


 怖かったのか、嫌だったのか、わからないけど、顔を真っ赤にして目を回していた。


「きゅ、急に、抱きしめるなんて、なしだよぅ……」

「すみません、言ったら嫌がると思ったので」

「湊くんって意外とがっしりしてるんだね……?」

「そうですか?」

「男の子なんだなぁって」


【≪不滅≫の粘糸】は、いわゆるフックショットだ。

 射程内の物であればくっついて離れず、任意に縮ませることができる。不要になれば切り離すことができ、手元から離れたほうは消えてなくなる。


「この移動やめましょうか」

「……う、ううん。別にいいよ。思ったより、嫌じゃないっていうか……うん」


 俺にぎゅううううと捉まったままの青ちゃん。


「ちょっと乱暴なくらいぎゅっとしてくれると嬉しいかも」

「? ああ、落ちたら危ないですもんね」

「そ、そう。そういうこと」


 まだ顔が赤い青ちゃんを抱き寄せたまま、俺は何度か糸で移動した。


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