第2話

私は、もう若くなかった。


そんなこと言うと嫌味のように聞こえるが、

他社の営業員と比較すると事実そうだった。

若くなくて知識のない営業員なんて存在価値がなかった。


過去の栄光を引きずって、私が営業先に選んだのは自衛隊だった。

1社目の時にあんなに営業成績が良かったんだから、また成功するに違いない。

そう思って毎日営業先までの10キロの道のりを歩いた。


「こんにちは!」

「今日も暑いですね!」


そうやって声をかけながら駐屯地内の廊下を練り歩く。

笑顔で、背筋を伸ばして、明るい声で。

そうしたら信頼してもらえて、保険の話を聞いてもらえる。

まずは時間がかかってもいいから人間関係を作るんだ。


「お姉さん、彼氏いるの?」


・・・まただ。


「あ、いや・・・結婚してるんで」

「えー残念。保険は違うところで入ってるから大丈夫かな」


目の前にいる男の表情が明らかに変わるのがわかる。

私の話すことにつまらなさそうに頷いている。


「ありがとうございました!」

「・・・したー」


深々と礼をし、頭を上げるとそっと薬指の指輪を外した。

・・・これが私の日常。


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