しあわせの形

@mugi0818

第1話 

日本は四季があっていい。

春は桜のピンクが、夏は生い茂る緑が、秋は広がる紅葉が、冬は雪景色が。


ただ、私には色がわからない。

全てが灰色に見える。人も街もみんな全て。


「今日のお昼も営業先行くの?」


上司の言葉にはっと我に帰る。

そうだ、今会社にいるんだ。


「あ・・・はい。今日はお客様とお約束があって」

「さすが近藤さんだね。頑張ってね」


上司は私の嘘にも疑うことなく、にっこり笑って自席に戻っていった。


いつからだろう。

平然とこんな嘘をつくようになったのは。


私はアンケートボードを鞄に忍ばせ、急いでいるふりをして会社を出た。


使うはずのないアンケートボードが嫌に重い。

湿度の高い空気が頬に触れるのを感じながら、軽い足取りで私は自宅へと向かった。


近藤つむぎ。今年で28歳になった。

大学を卒業してすぐに生命保険会社に入社した。

そこから色んな会社を転々とし、結局また生命保険会社にいる。


自分に誇れるものなんて何もない。

保険会社だったらそこそこ給料もいいし、喜んで雇ってくれるだろうという甘い考えで入社したが、現実は違った。

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