第21話 花火大会(運命の日)
―――8月24日 17:40 快晴 気温38度
僕はこっそりと家を抜け出し、花火大会の会場である大橋へと向かった。いつもの青い帽子と、おこづかいをありったけ持ってきた。大橋とは、超巨大な橋がいくつかある場所で、そこで花火を観るのが通例となっている。現地集合だったので、はぐれはしないかと心配になる。いくつかの不安も抱えている。
現地に到着すると、縁日の出店が沢山あり、人もわんさかいた。ゆえにリカと会えるかどうか余計心配になってきたが、後ろから青い帽子を被った少女がやってきて、手をつないできた。それはリカだった。
「リカ…平気かい」
「…平気よ」
笑顔を見せたリカだったが、顔が真っ青である。やはりこたえてるんだ…。僕らは華やかな周辺とは相反したものとなって出店を回っていた。
「何か食べる?」
「リンゴ飴」
花火が打ちあがり始めた。観客からおお、とどよめきが起こる。僕はリンゴ飴を探しながら考えた。リカの為には僕は別れた方がいいかもしれない。僕のせいでああなったんだ。そのほうが良いに決まってる。そんな事を考えている内に、つないでる手がほつれて離れてしまっていた。どこだ。どこに行った?リカを探す。近くの通りには気配が感じられなかった。不安が爆発する。僕は走り出した。勝手にどこかに行っちゃうなんて。しばらく走り回ったがどこにもいない。と、一人のお客が叫んだ。
「橋の外側に立ってる人がいるぞ!!」
周囲がざわめく。当然僕も嫌な予感がする。現場に行ってみると、米粒のような人がポツンと橋の外に立っている風景が見えた。革ジャンを着て青い帽子を被っているので、リカだ!そこで何をしているんだ!
「リカッ!!あぶないじゃないかッ!!すぐに戻るんだッ!!」
僕は近づきながら叫んだ。そこから落ちたら…落ちたら死んじゃうじゃないか!!
「リカッ!!!」
僕はもうちょっとというところまで来ていた。
「あ は
は は は
は は は サイコー」
叫んだ彼女は橋から手を離した。青い帽子が蝶のように揺れた。
————————————————————————————————
これが僕の知りうる限りの記録だ。
彼女が混乱状態にあったのは間違いない。僕らの愛も間違いないものだったし、その一方でロックが閉ざされてしまったリカの心情も分かり過ぎる程分かる。
だからって急に死を選ぶなんてずるいじゃないか。今はただ、リカのそばにいたい。
記録をつけた僕は大橋に向かい、今、橋の外側に立っている。
僕にとって彼女は、神のような人だった。
THE END
14日後に死ぬリカについての僕の記録 オーバエージ @ed777
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます