第15話 野外フェス3

―――8月19日 8:10 快晴 気温37度


今日は当然リカの野外フェスの日なので早起きをしてしまった。とは言え開始時間は夕方からなのでそこまで早起きする必要もなかったのだが、どうしても寝ていられずにはいられなかったというのが本音か。布団をかたずけると、1階に降りてクーラーに当たりながら朝食を食べる。メニューは余りのそうめんだ。するっと食べて2階に行こうとしたのだが、母親に止められた。

「あんた、100均ショップで野菜買ってき!」

「えーやだよー」

「お小遣いなしやぞ!」

半ば脅されるように買い物に付き合わされる。なんでここぞというときにこうなんだ。僕は暑い中百均ショップで買い物をすませる。スーパーの中はキンキンに冷房が冷えている。わざとダラダラと歩いて品物を選びながら回ってゆく。レジについた頃にスマホが鳴った。リカからだ!

「準備はOK?」

「もちろんOKだとも!」

「私、さとるんがそばにいないと…」

「…」

「私のバンド、16時からだから!じゃあね!」

一方的に切っていった。時間はまだまだある。まずは準備からだ。今日はリュックサックで行こうと思う。荷物が結構あるからで、小さいバッグではとてもじゃないけど入りきらない。あと大き目の水筒に氷をめいっぱい入れて、麦茶をいれようとおもっていた。だがこれは外出20分前くらいにやればいいだろう。幸いじいちゃんの水筒がある。

あとは交通機関だろうか。ここからかなり遠い場所にあるので、それも考えて出発時間を考えておかなきゃいけない。まあ昼頃に行けば充分間に合うだろう。

今から野外フェスが待ちきれない。動画では夜暗くなってもやっていた。帰りは大丈夫だろうか。


―――8月19日 12:10 快晴 気温42度


2階から外を見ても暑さが分かる。早速僕は水筒を作り、タオルで巻いてリュックにいれた。あと何があるか分からないので財布に1万円入れておいた。

今からでもリカのライブが待ちきれなかった。この時間から行っても間に合うか間に合わないかなので、早速家を出た。直射日光が容赦なく僕を照りつける。帽子を被っていても汗が止まらない。先が明るく見えず、フラフラする。それでも僕はリカのライブのために歩を進めた。

ようやく電車に乗る。乗りながらスマホの乗り換えアプリで目的地を検索した。ここから34分、乗り換えて23分、さらに乗り換えて30分のところにある。電車代がばかにならない。やはり多めに持ってきて正解だった。冷房が効いてる事だけが救いである。

乗り換える為に一度電車を終りたが、どこに乗り換えたらいいかわからない。僕は駅員さんにスマホを見せて無事教えてもらった。夏休みなので人手がすごい。しかもこの駅は某大型遊園地を通っている駅なのでなおさらだ。ぎゅうぎゅう詰めで歩くのもままならなかった。


―――8月19日 15:10 快晴 気温42度


何度か乗り換えて、やっと野外フェスのある地に辿り着いた。すでにフェスは行われていた。僕は慌てて座席の先頭を取り、水筒の麦茶をがぶ飲みした。今は知らないバンドが演奏をしている。スマホをチラリと見ると15:25分だ。あと35分…。天候は夕方になっていたが、夏なのでそれほど暗いと言う訳でもなかった。

客はどんな曲でも熱狂の嵐の中にいた。


16:00…


一度暗転したステージに、光が差し込んだ!

リカだ!

「みんなぁ初めまして、リカでぇす!!!」

客は初めて見るアーティストに1瞬だけとまどったが、間もなくうおおと怒号が飛んだ。衣装が…インタビューした時よりも強化版であるとだけは言っておこう。

「今度でる音楽雑誌MJにインタビューがのってるので、みんなみてね~!!」

うおおと音のウェーブが飛び交う。

「じゃあ聞いて下さい、右耳revolution!」

熱気のある手拍子がフェス中に届き、僕は圧倒される。

♪今このある時間、この瞬間に君が横にいて、私の片耳を刺激する―――――――

このフェスにはスポンサーも見に来ている。彼女のCDが出る日も近いだろう、そう思わせる曲だ。

♪何度でも私の片耳を打ち続ける右耳revolution!右耳revolution!―――――――

彼女の歌声は、観客全員のハートをつかんで離さなかった。

大きい筒から、キラキラしたものが放出された時が観客のピークだった。

「ありがとう!また会いましょうね!」

そう言って彼女はギターをヴィーンと鳴らした。観客もうおおと歓声で応える。舞台は大成功だ!

僕も思わず興奮して青い帽子を振り回して喜んだ。すると、またしても奇跡的に視線が合った!リカは微笑みを浮かべてその場を去った。

「審査員特別賞、リカ!!」

司会者が叫ぶとうおおと再び歓声が上がる!もうボルテージは吹っ切れていた。


もうこうしてはいられない。僕は自然とバックステージへと足を運ばせた。裏にはギターを下ろしてメンバーと談笑しているリカがいた。今のタイミングで会ったらまずいだろうか。狼狽していると、リカの方から僕へ駆け寄って来た。そしてぎゅーっと抱きしめる。

「さとるんのおかげだよ!ここまでこれたのも!CDの発売も決まったよ」

「それはおめでとう!よかったね」

「もうこうなったら行ける所までいくからね!じゃあ私はプロデューサーさんとお話があるから、またね」

そう言ってリカはギターケースを片手に行ってしまった。

え…僕、帰りも1人なの?帰れる自信ないなぁ…。

そんな事を考えながら、一人で家路に何とか到着できた。

「リカはどんどん遠くなってゆくなぁ…」

電車の中でそのことが拭いきれずにいた。


「あんたどこ行ってたん?晩御飯食べ!」

夢見心地のまま夕食を食べ、疲れから風呂にも入らず布団にバタリと倒れたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る