第12話 インタビュー

―――8月17日 8:10 快晴 気温38度


今日はリカの音楽雑誌インタビューの日だ。そして僕も付いてきて欲しいとのリカの要望だった。場所はここから結構離れた所にある都心に編集部はある。今日も暑そうだ。この間お婆ちゃんが来て、おこづかいをもらったので6千円ほど財布に入れ、お気にの青い帽子を被り、朝食をかっこんでから外に出た。

今日も視界が揺れている。直射日光が当たり、後頭部が熱くなる。いつもの建築現場から作業音がし、サイレンがこだまする。駅に着く前から早くもこれである。幸い電車の中は涼しかったが、弱冷房車だったのが気に食わなかった。

途中、乗り換えがあったので、一旦電車を降り、別の線へと移動した。長い長いエスカレーターを昇って、エレベーターに乗り、何度も3番線かどうかを確かめてから乗り換えた。これは一人では帰りはきつそうだ。リカと一緒に帰れるだろうか心配になってきた。地下鉄の出口が沢山あって困ってしまった。慌てずケータイのGPSのMAP機能を使って近い方を選んで突き進んだ。

出口を出ると外はさらに暑くなっており、我慢の限界が来ていたので、コンビニでお茶を買って水分補給した。熱射病になっては元も子もないからだ。MAP機能で見てみると、もうすぐまで近づいている。しかし道幅が広く車も沢山走っていて、なかなか目的地まで行くことができないでいた。ようやっと着いた頃には10時を過ぎていて、焦りながらも編集部の中まで入って行ったのだった。


―――8月17日 10:20 快晴 気温40度


編集部の中は思った以上に広く、小さな僕は狼狽していた。とりあえず優しそうな通りがかりのお姉さんに訊ねてみる。

「あのぉ…リカさんの取材をしている部屋を知りませんか?」

お姉さんはキョトンとしていた。

「リカさんのご関係者ですか?」

「一応…その、付き人なんですが」

「はぁ…ではこちらへどうぞ」

連れられるままに連れていかれた僕は、ただ引き寄せられる魚のようだった。

「こちらがルーム3になります。リカさんは丁度インタビュー中ですのでお静かに願います」

ここでリカがインタビューを受けているのか。そして雑誌を通して日本中にリカの存在が知られるんだ。そう思うと興奮やまず、ドアを少しだけ開けてみる事にした。

すると、例の衣装を着たリカがインタビューをうけているではないか!終始笑顔で対応しているあたり、上手くいってると信じたかった。

インタビューをしている男性が、

「それでは撮影に入りますので、写真撮影のルームに移動してください」

と言ってきたではないか。バレる!男性とリカが部屋を出た瞬間、棒立ちの僕が2人の視線に入って来た。

リカは笑顔でピースサインを向けた。

「誰?友達?」

男性は訝しげに訊ねたが、

「弟です弟!つい付いてきちゃったんですよねー」

「あぁそう。もう少しだから待っててね」

まさか恋人とは言えないだろう。いや恋人かどうかも謎なのだけれど…。

写真撮影もドアを少し開けて撮影シーンを眺めていた。

「もうちょっと屈んでー」

パシャパシャ撮られている彼女を見ていると、どこか遠くに行ってしまったような気がして、少し寂しくもあったけど、階段は登っていかなくちゃいけない。その一歩だと思うと嬉しくもあった。

「はいOK、ありがとうございましたー」

「ありがとうございましたー♪」

撮影室から勢いよく出てきたリカは、すぐ僕の手を取って一つ下の階段に駆け下り、ギュッと抱きしめた。いつも通り胸に顔が埋まる。

「本当に来てくれる事信じて、私頑張れたよ!」

「それはよかった!」

僕は素直に喜んだ。

「これで雑誌を見た人がライブハウスに集まってくるね」

「ノンノン、そんな小さい事言ってられないわよ」

「どういう事?」

「それはパフェでも食べながらお話しましょ!」

そう言って手を取ったまま階段を駆け下りて行った。

「あぶない!あぶないから!」

僕の忠告も聞かず、彼女は階段を胸を強調した衣装のまま駆け下り続けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る