第11話 スタミナ
―――8月16日 12:50 快晴 気温42度
肝試しの後、僕とリカは何故かステーキ店にいた。熱射病になりそうな気温でステーキ。でも店内は涼しかった。
理由を尋ねると、どうしてもスタミナをつけたい、とだけ吐露した。確かに演奏するだけでスタミナは減ってはいきそうだが…。
僕はもちろん生きてて今まで食べた事のない代物だったのでわくわくしていた。どれだけおいしいものなんだろう。彼女はBluetoothイヤホンをつけたまま、アンニュイな表情で横の窓を見ていた。まだまだ悩み事が沢山あるのだろうか。と、ステーキが来るや否や、
「食べるぞーっ!!」
と、ナイフとフォークを手に一切無駄の無い動きでステーキを食べ始めた。僕はというと、ナイフとフォークの使い方すらままならず、リカに教えてもらう始末だった。やっとひと口食べると、
「おいしい!!」
やや弾力がって硬いがクセになるその美味しさに舌鼓を打った。
「ライスいらないから、おかわり作っといて!」
リカのステーキはスルスルと胃に入っていった。僕は何とか1枚食べるのがやっとで、3枚平らげたリカの胃袋を畏怖した。
「ふぅ…」
水を飲み落ち着いたリカの顔には、笑顔が戻っていた。
「明日、私ね…」
意味深げな言葉をリカは発した。何だろう。
「音楽雑誌のインタビューに応じるの!もうサイコーよ」
「おお!良かったじゃないか!」
デビューからまだ間もないのにラッキーとしか言いようがない。
「だからスタミナをつけておかなくちゃと思って、ステーキにしたわけ」
「それでかぁ…なるほどね。でもかなりスタミナついたんじゃない?」
「ついたついた!絶対明日は成功させるからね。それで…」
「うん?」
リカはモジモジしている。
「さとるんにもギリギリまで、付いてきてくれないかな?なんつって」
「ええーーっ!!」
「何て言うか…心細いからさ、なんてね」
リカの顔面は真っ赤である。
「それはいいけど…あちら側は大丈夫なの?」
「へーきへーき!言っとくからさ」
「じゃあ別に…いいけど」
「あとね、衣装が最初に着た服になっちゃったの」
「ええ?どうして」
「編集部の人がたまたま見に来た時が、その服装の時だったわけ」
「あらら…」
その辺はつくづくついてない。しかしチャンスは逃すわけにはいかないだろう。コンセプトは違くても、露出がまず大事だ。
「我慢すれば、きっとリカの本当にやりたいロックが見つかると思うから、いまは辛抱だよ」
「そうね…もう1枚いっとく?」
僕は丁重にお断りした。
約束の時間と場所を聞いてから、2人はステーキ店を後にした。
まだ時間がありあまっているのでトレカ屋さんに久々に顔を出したりしたが、リアルのリカの顔がチラついて離れない。自販機で麦茶を飲んでから、自宅に戻りアニメを見たのだがどうも絵空事のようにしか見えなかった。それからは1階に降りた。リカがまたいるんじゃいかとハラハラしたが、幸いいなかったので、しょぼい夕食を食べ、麦茶を飲んで2階に戻った。明日は少し遠くに行く。念のため早めに布団に転がり寝息を立てた。
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