第10話 肝試し

―――8月16日 10:20 快晴 気温42度


僕とリカはまだ暗いバックステージ内にいた。

「今日はこれからどうするの?」

僕は彼女に訊ねた。するといつ持ち出したのかペンライトを顔の下から上にかざし、点灯しながら、

「肝試しにいきましょうか…」

と言ってきた。僕は怖いのが大の苦手だ。たちまち心臓の鼓動が早くなり、背に汗が伝う。

「や、やめてよもう!」

「やめないよ…怖いよ…」

リカはペンライトを消そうとしなかった。ルックスが良い分、余計に怖く感じた。

「ガチで怖い所だから。廃病院で…」

「あーあー聞きたくない!」

僕はこれ以上冷や汗をかきたくないのでバックステージを後にしようとした。しかし彼女がガシッと僕の腕を掴んで離さない。

「かわゆいのー。大丈夫2人で行けば問題無いから行こ。ね?」

「…絶対、ぜーったい守ってくれる?」

「守る守る(笑)」

そう言うと、やっとリカはペンライトを消した。

「昼でも暗い場所だから、夜行かなくてもいいのが利点ね」

それでも臆する僕は震えが止まらなかった。


―――8月16日 11:40 快晴 気温43度


僕らはタクシーに乗ってまでも廃病院にむかっていた。僕は早くも漏らしそうだった。リカはイヤホンで音楽を聴きながらうんうん頷いている。と、

「ここで止めて」

「ここには何もありゃせんで」

「いいの。いくら?」

鬱蒼と茂る森に囲まれた奥所にある廃病院。昼なのに真っ暗で、コウモリが一斉に空を覆っている。雰囲気はもうすでに最高潮に達していた。

「ちょっとトイレ行ってくる!」

「もー」

僕は我慢が出来ず、思わず用を足した。帰って来た僕の手に、リカはアルコールスプレーをかけてくれた。

「この病院ではたくさんの人が死んでるの。だからって噂があるの…」

「やだやだ!絶対入りたくない」

「さとるんの勇気が今、試される時よ」

2人は朽ちたドアを開け、中へと入ってゆく。注射器が落ちている。骨格標本がある。禍々しい空間が異様な空気を醸し出している。奇妙な耳鳴りが支配してゆく。ペンライトの視界しかないまま、2人は進んでいった。もう僕は昇天しそうな程後頭部が熱くなっていた。

「2階へ行くわよ…」

その時である!複数の人影が2階から見えた!幽霊みたり。僕は泡を吹きそうになる。

「誰かいるの?」

「いやー驚かせちゃって御免」

結局は、その人達も肝試しをやっていたチームだった。

「何だ、つまりは観光名所化しちゃっててつまんないわね。冷めちゃったわ」

2人はあっさり廃病院を後にしたのだった。内心ほっとしている僕がいた。

彼女は言った。

「ちょっとスタミナつけなきゃいけないから、行きたい所があるんだ」

「スタミナ?」

何の事やら分からず、手を引っ張られるままにタクシーに乗った。

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