第7話 ソロデビュー
―――8月15日 7:10 雨 気温39度
あれから僕は久々にアニメを見たり、ゲームをしたりして、時間に余裕もあったので寝る時間もかなりあったためか、今日は実に早起きできた。しかし窓を開けるとあいにくの雨だ。今日は記念すべきリカのソロデビューの日なのに…。でも雨だろうと何だろうとファンは来る時は来るさ!そんな前向きな自分がいた。
急いで1階に駆け下り、朝食を食べた後また素早く2階に駆けあがり、お気に入りの青い帽子とチケットを持って、今日は特に余裕を持って傘をさして出発した。
―――8月15日 9:20 雨 気温40度
僕は傘を差して余裕を持ってライブハウスに到着した。ライブハウスの前にリカのソロデビューの広告看板があった。だからだろうか、雨にもかかわらずハウス前は盛況だ。僕はチケットをもぎりのお兄さんに渡す。
「ドリンクは奥でね、それと傘はビニールに入れてね」
言われた通り、傘を専用ビニールに入れ、ドリンクをもらう。パンフによるとリカの出番は3番目らしい。すごく楽しみだ。どんなロックが聴けるだろう。2番目までの演奏が終わり、いよいよ暗転してリカの登場となる。光が差すとリカがステージに立っていた。胸元の開いた大胆な衣装を着ている事に驚いた。その衣装でギターを背負っている。
「皆さん、どうも元ゲットセットゴ―のリカです。この度ソロデビューしました。思いっきりロックな音に仕上がってるのでどうか皆さん楽しんでってね!」
ファンの歓声が上がる。激しいイントロが流れると、ボルテージは頂点に達する。
♪2人いつまでも重ねて結んでつないだハート連ねて今日もまた走り出したり走り出さなかったり――――
詳しくはないけれど、素直に良いロックに思えた。ファンもノリノリで踊っている。白い棒が揺れる。
あっという間に彼女の曲の終わりかけに、少しふらついたのを皆が心配する中、
「どーもありがとー!」
と元気良く挨拶したのを合図に花束が沢山投げ入れられる。リカは花束を全部取ると、バックステージに戻って行った。
僕は偉そうだけど、早くほめてあげたくてライブハウスを出てバックヤードを入っても当然のごとく開け、ズンズン先に進んでいった。相変わらず中は暗い、それでも進んでく。と、花束に囲まれた彼女を発見する。彼女は誰か分からない男性と話をしていた。
「…まぁまぁね。あとこの衣装は一生着ないから」
「そんな事言うなよ…せっかくオーナーが用意したんだから」
表情の雲行きはあまりよろしくないようだった。が、僕を発見すると、
「さとるん~!来てくれてたんだね!」
といきなり僕を抱きしめ、顔が胸にうずまる。スキンシップが段々激しくなっているような気がした。
「もう終わったんだから帰るからね!」
「次もチケット、さばいてくれよな」
「いつも大量にさばいているでしょ!?行こ」
彼女はこの衣装のまま、僕を連れてバックステージを後にした。
―――8月15日 10:30 曇り 気温41度
幸い僕らがクラブハウスを出たちょうどに、雨は止んだようだった。彼女は歩いたまま、僕の手を離さないでいる。
「どこにいくのさ!」
「パフェ!」
「僕今日お金ないよ」
「おごるからよし!」
早速ファミレスに入る。店員さんが彼女の恰好に半ば驚きながらも、
「2、2名様ですか?」
と声を掛けて来る。2人はソファに腰かけた。
「クラブハウスにはね、チケットのノルマがあって」
と、彼女はパフェを頬張りながら言った。
「いっぱい売らないといけないんだけど、私のファンが沢山買ってくれてるから、お金には困ってないの」
「金持ちなのに僕にお金出させたの?ずるいなぁ」
「まぁまぁ。それはそれとして問題は…やっぱり音楽なの。今日のソロデビューどうだった?」
「とっても良かったと思ってるよ。かっこよかったし」
「この衣装でカッコいい?笑わせないでよ」
彼女はそう言うとパフェのスプーンを奥まで突っ込んだ。
「私はいつもの革ジャン姿がよかったの!でもクラブハウスオーナーが無理やり私に半強制的にこの衣装を着させられたのよ」
彼女を衣装を眺めるとどうしても胸に目が行ってしまう。つまりはそういう衣装だ。
「そこで、考えてるのが野外フェスなの」
「野外フェス?」
「そう。外で行われるライブのことよ。だからなんとしてでもクラブハウスで1番にならなくちゃ…」
彼女はそう言ってしょんぼりした。
「でも不安なのよね、このままのロックの方向性でいいのかどうか…」
考えるとソロデビューした彼女の歌声はどちらかというとロリロリしいボイスをしている。正統派のロックではないのかもしれないが、口には出さないでおいた。
「そのまま突き抜けたらいいと思うよ。突き抜けた先に何があるかは分からないけど」
「…ありがとう、そうするわ。じゃあ私いい加減、衣装を変えてくるね」
そうして僕らは再び会う事を約束して、一旦別れた。彼女の全ての悩みを抱えてあげたいと思いながら。
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