白雪姫のその後の話。
はるむら さき
白雪姫のその後の話。
白雪姫のいない丸太小屋。疲れきった七人の小人たち。
「ハイホー、ハイホー」歌う声は、ずれて重なり、不協和音。
それすら気づかない、否。気づかないふりをして。今日も生きるため働きに出る。
彼女と過ごした、夢のようで華やかな日々を胸に抱えたまま。
知らなければ良かった。夢のような楽しさを。美しい価値観を。
そうすれば、それまでの生活になんの疑問も抱かなくてすんだのに。
主を失った真実の鏡。ひび割れて歪む。
問いかける者はもういない。
「この世で一番、美しいのは誰」
かわいそうな女王さま。
鏡に問いかけたって、映し出す者は一人しかいないのに。
世界で一番、美しい者も、その反対も。あなたでしかない。
私の目の前にいるのは、女王さましかいないのだから。
日に日に老いてく、自分の姿を直視することが出来なくて、いつしか大きな窓の外ばかり見ていたから。
たまたま通りがかった白雪姫のこと、鏡に映っただなんて思ってしまったのね。
女王さま。あなたが今、私の前にいないことも含めてすべて、あなたが現実を受け入れられなかったからよ。
私はいつでも、あなたしか映してはいなかったのに…。
王子さまのお城に招かれた白雪姫。
自分を死から救ってくれたあなたこそ、運命の人と思ったのに。
私は大きなベッドの上で、日がな一日、死んだふりをする。
私が小鳥と歌うこと、何かを口に運ぶこと、笑って誰かと話すこと。
そのすべてが、運命の人の心を遠ざける。
王子さまが恋をしたのは、ガラスの中の動かぬ私。
あなたの心を繋ぐため、私はずっと目を閉じる。
王子さまが眠りについたその後で、ほんの少しの時間だけ、白雪姫は死んだふりから解放される。
戻りたい、と思っても、彼女には帰る国さえもうありはしない。
あの意地悪な継母を王座から引きずり下ろし、同時に王子さまが国ごと自分の領地にしてしまったのだから。
誰も彼もが、誰にともなく、そっとため息。
あの頃が良かったなんて思っても、やっぱりもう遅いけど。
あの頃よりも、素晴らしい未来を手に入れるには、自分に力が無いことも、やっぱりちゃんと分かってる。
色褪せてしまった、灰色の世界で、三者三様、それでもなんとか暮らしましたとさ。
めでたし、めでたし。
白雪姫のその後の話。 はるむら さき @haru61a39
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます