第102話※

「もし話したら、死ぬだけなので」


 ……馬車の外から聞こえたクーの言葉が、わたしの頭の中で反芻する。



 馬車に入る時の「安心して寝てていいよ」というクーの言葉が引っかかり、わたしとリーフィアは寝たフリをしていた。のだけれど……


「…お姉ちゃんは、本気でしょうね」


 隣で寝るリーフィアがそう口にする。


「…本当に?」

「…他の人に危険が及ぶと判断すれば、間違いなく」

「……そう、ね」


 クーは、そういう子だ。誰かを救う為ならば、自分自身の命を手にかけることも厭わないだろう。


「…お姉ちゃんは、わたしにノートを見せてくれませんでした」

「………」


 クーが作った魔法を書き記しているノート。それを見せないのは、リーフィアを危険にさらさないようにする為なのだろう。


「……その認識でいいよ」

「「っ!?」」


 声が聞こえた方を見る。すると、幌の窓から顔を覗かせるクーと目が合った。


「…気付いてたのね」

「そっちこそね」


 クスッとクーが笑う。

 …どうして、笑えるの…?


「…本気、なの?」

「ん?……あぁ、うん。本気だよ」


 何も気にしていないような表情でクーがそう言う。


「死ぬってことなのよ…?」

「うん。そうだね」

「…どうして、」


 どうして、そんな簡単に言えるの…?


「だって、わたしが死ぬだけで、それは全て闇に消える。わたしの死ぬ人が居なくなる。なら、わたしは迷いなく死を選ぶよ。これは変わらないから。誰が何と言おうと」


 ……目を見ればわかる。意志を曲げるつもりは無いということが。


「………」

「そんな顔しないでよ。学園を卒業するまでは一緒にいるから」

「少なくとも…?」

「あっ…」


 クーが口を手で覆う。どうやら失言だったようだ。

 少なくとも…それはつまり、学園を卒業した後にそうなる可能性があるということ…?


「……まぁ、否定はしないよ」

「………」

「あともうちょっとで交代だから、少しでも寝ておいた方がいいよ」

「……分かった」

「ん、おやすみ」

「…おやすみ」


 最後にクーが笑顔をうかべ、窓の幌を下ろした。

 ………絶対に、死なせるもんですか。

 





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