第103話

「…話は終わった?」


 馬車から戻ってきたクーリアに対して、ナターシャがそう心配げな声で話しかける。


「終わりました」

「そう…わたしも、出来る限り護るから」


 その言葉に、クーリアは少し笑顔を浮かべるのみだった。


「ところで、ナターシャさんは盗賊どうしたんです?」

「一応脇腹を剣の腹で叩いてから縛ってきたわ。ついでに連絡を済ませておいたから、多分夜明けには回収にくるわね」

「そうですか」

「そう言うそっちは?」

「これ使いました」


 クーリアが腰のポーチから、あの青い液体が入った小瓶を取り出して見せた。


「……眠り薬?」

「はい。本当は痺れ薬を使う予定だったんですけど、取り出したのがちょうどこれだったので。一晩は昏睡状態になる薬です」

「…中々強力な薬ね」


 そう言うナターシャの顔は、少し引き攣っていた…。

 まぁ、当然過ぎる反応ではあった。薬が付いた矢が少し掠っただけでも、それだけの効果がある薬だったのだから。


「多分あっちで寝てます」

「……まぁ、ここからはわたしがやったほうが良いわね」

「お願いします。わたしはちょっと…」

「なにかあるの?」

「……聞きます?」

「ん?…あぁー…ごめんなさい。行ってきていいわよ。気をつけてね」

「はい」


 タッタッタッとクーリアがナターシャに背を向け、森の中へと走って行く。

 ……お花をつみにということである。


「さてと。わたしも仕事しなきゃね」


 ナターシャがそう呟き、クーリアが矢を放った方の森へと入っていく。すると、そう進まないうちに1人の地面に横たわる男の姿が目に入った。


「……ほんとぐっすり寝てるのね」


 ナターシャが男の顔を覗き込む。その寝顔はとても穏やかなものだった。矢も少し腕に掠った程度で、命に関わるものではない。


「腕がいいわねぇ…とりあえず…」


 クーリアの短弓の腕の良さに舌を巻きつつ、手馴れた手付きで手足を縛り上げ、近くの木に固定する。


「よしっと。あとはこれね」


 ナターシャが腰のポーチから握りこぶしほどの小さな白い石を取り出し、それを両手で包み込む。

 すると、次第に穏やかな光を放ち始めた。


「………これくらいね」


 そう言ってほのかに光を放つ白い石を地面へと置いた。

 これは魔獣避けの魔法石と呼ばれる魔道具の一種だ。

 効果としては、魔力を込めることで特殊な結界を常時展開するというもの。展開時間は込めた魔力に比例し、先程ナターシャが込めた魔力ならば夜明けまでもつだろう。その頃には盗賊を回収してもらう為に呼んだ人が駆けつけるはずなので、時間はそこまでで問題ない。

 ちなみに、ナターシャが担当した3人組のほうにもしっかりと仕掛けられている。


「さて。あと一人よ……ねぇ…」


 ナターシャが言葉を詰まらせる。その理由が……


「……ほんと。色々とやってくれるわよねぇ…」


 大きく脇が抉られた、大木。そして、その横で倒れる男の姿。幸い腕に刺さっただけで息はある。


「…確かに。ここまで威力があれば問題大ありね」


 大きく抉れた木肌を指でなぞりながらそう呟く。


「はぁ…おじいちゃんに報告しとかないとなぁ」


 ドリトールもクーリアの規格外さをよく知っており、それを隠す為に陰ながら行動していたりするので、ナターシャは今回のことも報告しておくことにしたのだった。



 




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