第101話
ナターシャが森の中へと消えた後、クーリアは腰に着けた矢筒から2本の矢を取り出した。
「…これ…かな…」
クーリアはそう呟きながら、腰の横に着けたポーチから小瓶を取り出す。その中は青い液体で満たされていた。
「あー……うん、まぁいっか」
小瓶に付いたラベルを見て、クーリアがそう呟く。その反応からして取り出したい物とは違ったようだが、どうやら大丈夫らしい。
小瓶の蓋を捻って開け、2本の矢の
「…付いたかな」
クーリアが鏃を引き抜き、確認する。
小瓶を満たしていた青色の液体は少しトロっとした粘着性がある液体だったので、しっかりと付着したようだ。
「よしっと」
小瓶の蓋を固く閉めてポーチへと戻し、クーリアはその2本の矢を弓に番えた。
「……《リブート》」
強化の呪文を呟くと、ヒュンッという風切り音を鳴らしながら2本の矢が
「…《リモート・ロック》」
続けて追尾の魔法を発動。真っ直ぐ並んで飛んでいた2本の矢は、それぞれ別々の方向へと軌道を変え、森の暗闇へと吸い込まれて行った。
「……ちっ」
少しして、クーリアが舌打ちをする。
「1人躱された…」
クーリアの放った矢を躱されたようだ。
《リモート・ロック》は遠隔操作の魔法の一種だが、止めることは出来ない。そのため、木々が密集する場所で木の影に隠れられると当てられないのだ。
(暗闇で見えないと思ったのに…)
実際1人には当たっているので、クーリアのその考えは合っていたと分かる。が、そんな暗闇で見えにくい矢を躱すことが出来た敵。間違いなく手練だろう。
「…《リ・ゾーン》」
…だが、それをクーリアが予想しなかった訳が無い。
クーリアが呟いた呪文。それにより行使される魔法。それは、
再強化された矢は突き刺さっていた木すら貫通し、その影に隠れていた敵へと命中した。
「…よし。捕獲っと」
残っていたもう1人にも矢が命中し、クーリアがそう呟いた。
(…これは、わたしだけの秘密)
強化に強化を重ねる魔法は存在しない。後から掛けられた強化が打ち消してしまうからだ。しかし、クーリアはそれを可能にしてしまった。だが、それは使い方を誤れば強力な
(…単純な話なんだよね。
考え方の違いだ。重ねるか、付け加えるか。
クーリアが最初に強化した効果は、『速さ』
次に付け加えた強化は、『力』
それぞれが異なるからこそ、付け加えるという強化が可能になるのだ。
「…なるほどね。確かに見られたくはない、か」
「っ!?」
ばっ!とクーリアが振り向く。後ろにはいつの間にかナターシャが立っていた。どうやら一連の行為を見られていたようだ。
「あぁ、ごめんなさいね。でも誰にも言わないから安心して」
「……まぁ、いいです。信用はしてますからね」
「あら嬉しい」
クーリアから信用していると言われ、ナターシャが本当に嬉しそうに微笑む。
……だが、次のクーリアの一言でその笑顔は消え去った。
「もし話したら、死ぬだけなので」
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