第91話※

「最初は、よく知らなかったんです」

「知らなかった?」

「はい」


 わたしが物心ついた時には、もうお姉ちゃんはいなかったから。お兄ちゃんから聞いていただけで、よく知らなかった。分からなかった。


「……でもある日、偶然に知り合ったんです」


 街中で、わたしはお姉ちゃんだと知らずに顔を合わせた。


「クーは気付いてたの?」

「おそらくは……」


 お姉ちゃん、勘はいいからなぁ…と、話が逸れた。

 わたしがお姉ちゃんと初めて会った時の第一印象は、不思議。


「不思議?」

「はい。今でもですけど」

「……まぁ、それは同感だわ」


 サラさんの反応に少し苦笑を零す。

 お姉ちゃんは、考えていることがとにかく分からなかった。表情が変わらないというのもあるんだろうけれど、それ以上に気持ちを制御することが上手かった。だから分からなくて、不思議という印象を持った。


「無属性しか使えないと聞いたのも、その時です」

「……どう感じた?」


 サラさんが少し固い声で尋ねてくる。『白』の差別について知っているからだろう。


「別になにも。貴族ではないと思っていましたし。逆に魔法が使えることが凄いと思いました」

「そう…」


 少しサラさんが安心したような表情を浮かべる。やっぱり差別を気にしていたみたいだ。


「…でも、その出会いが今の関係の理由にはなり得ないわよね?」

「はい。その後も何度か会ったんですけど……そのを知ったんです」

「強さ?」


 お姉ちゃんは、強い。それは魔法とかじゃなくて、心。


「…学園で、少し耳に挟むこともあったので」


 お姉ちゃんの悪口や蔑みの言葉を。

 しかし、そんなことでお姉ちゃんはへこたれなかった。それどころか、貪欲に自分に出来ることの知識を求めた。


「…言わば、お姉ちゃんはわたしの憧れなんです」


 どんなことにも負けず、ただ自分の成すべきことを成す。わたしの、理想の人だ。


「憧れ、ねぇ……確かにクーは心が強いかもしれない。けれど、それはあなたがいたからじゃないかしら?」

「……え?」


 わたしが、いたから?


「クーってああ見えて結構寂しがり屋でね。わたしと知り合ってからは、ずっと2人でいたわ」

「そうだったんですか…」


 だから、あんなに仲がいいんだ。


「…まぁ、わたしとしては、牽制としての意味もあって、クーと一緒にいたんだけどね」

「牽制…?」

「悪口と……男よね」

「あぁ……」


 納得した。蔑まれていたとしても、それは貴族からであって、準平民や平民からはお姉ちゃんは慕われていたと聞く。むしろアイドルのような存在であったとも。


「…クーは自覚しないから。悩殺された男どもは数知れずよ」

「うわぁ……」


 お姉ちゃん、罪な女です…。


「まぁ話は戻すけど、とにかくクーが悪口を耐えられたのは、兄妹の存在があったからでしょうね。人間、自分を認めてくれている存在がいることを知っていれば強いから」

「…………なる、ほど」


 ……こんなちっぽけなわたしでも、サラさんの言う通りお姉ちゃんの助けになれていたらいいなぁ……





 



 

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