第89話

 食事を終え、全員で片付けを始める。まぁそこまでの片付けは必要ないので、あっという間に終わったが。


「クーは最初の見張りでいい?」

「うん、いいよ」


 寝ている途中で起こされるより、最初に見張りをしてその後ずっと寝た方が楽なので、クーリアは快諾した。


「よし。終わりね」

「匂いは空に上げておきますか?」

「そうね。お願い」


 辺りに漂ってしまっていた食事の匂いを、リーフィアが空へと風魔法で上げる。


「じゃあクーの次はわたし、リーフィア、イルミーナ、ヴィクターでいいわね?」

「はい」

「いいよー」

「おう」


 夜の見張りの順番を決め、それぞれが行動を開始する。

 まずは夜に火を絶やさないよう枯れ木を追加で集め、馬車の中に毛布を敷く。男だけ外で寝るのは酷なので、全員馬車で寝ることになっている。


「じゃあよろしくね、クー」

「まかせて」


 クーリアとナターシャ以外の全員が、馬車の中へと消える。交代はおよそ1時間ほど後だ。


「ナターシャさんは寝ないんですか?」

「一応付き添いだからね。暫くは起きておくわ」


 冒険者として経験が長いナターシャであっても、一晩中起きておくことはさすがに出来ない。なので、最初の方だけ起きておくようだ。






「…で。そろそろ話してくれるでしょ?」


 暫く経ち、ナターシャがクーリアにそう切り出した。


「……なんの事でしょうか?」

「決まってるじゃない。魔導銃のよ」


(…バレてた)


 ナターシャは昼間尋ねた時のクーリアの表情から、何かを隠していることに気付いていたのだ。


「……大したことじゃないですよ」

「じゃあ見せて?」

「………はぁ」


 ナターシャがこうなるともうどうやっても避けられないので、クーリアはため息をつきながら、空中に手をかざした。


「?…っ!?」


 それを見てナターシャが驚きの表情を浮かべる。それもそうだろう。

 ……突然、光の粒子がひとりでにクーリアの手へと集まり、それが魔導銃を形作ったのだから。


「それは…魔法…?」

「ある人から教わりまして…でも言わないでくださいよ?」

「…そもそも言えるわけないじゃないの」


 クーリアが行使した魔法は、あの森の女性から教わったものだ。

 ……だが、そもそも魔法は存在しない。しかし、それをクーリアは、やってのけたのだ。

 クーリアのことを気に入っているナターシャにとって、そのことを誰かに話すことなど、出来るわけが無い。話せば面倒事を招きかねないと目に見えているからだ。


「…あなたは本当に驚くことをやってくれるわね」

「…否定出来ない…」

「自覚あるのね…」





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