第88話

「今日はここで野営だな」


 しばらく馬車が進み、日が落ちて辺りが暗くなり始めた頃、ヴィクターがそう切り出した。


「そうね。じゃあ少し開けた場所に止めて」

「ああ」


 ヴィクターが馬車を操縦し、木々がない開けた場所へと止める。規模としては小さめだが、問題は無い。


「じゃあまずは周辺の安全確保ね。クーは食事の準備して」

「分かった」

「イルミーナも待機ね」

「はーい」


 そう役割を決め、サラ、リーフィア、ヴィクターが周辺の安全確保へと向かう。


「じゃあまずは…石を並べようかな」

「力仕事はするよー」

「ありがとう」


 イルミーナは辺りに散らばった中くらいの石を集め、火の周りを囲うように積み上げていく。これは火力を維持するためと、森へと飛び火しないようにする為だ。

 クーリアは、イルミーナがそれらの作業をしている間に、燃やすための枯れ木を集めていた。



「よし。じゃあ火付けて」

「分かったー」


 イルミーナが雷属性魔法を応用し、集めた枯れ木に火をつける。


「中々の制御ね。その歳ですごいわ」


 ナターシャがイルミーナを褒める。

 魔法は威力を強くすることは比較的簡単だが、逆に弱くすることは難しいのだ。


「やった!褒められた!」

「はいはい。作ってくよ」


 クーリアが鍋を火にかける。中には予めイルミーナが水を入れていた。


「スープ?」

「はい。1番簡単で膨れるので」


 食料は全て馬車に積み込まれている。と言っても、道中痛まないよう保存が効くもののみだ。なので、硬い干し肉やパンしかない。だがクーリア達は、その他に干し野菜を準備していた。


「なるほど。確かに日持ちするわね」


 生野菜よりも長く日持ちするため、野営にはうってつけだ。だがその反面、スープなどにしないと食べられない。

 調理はいるが、そう手間もかからないため、クーリア達はこれを準備したのだ。


 干し肉で出汁を取り、干し野菜を投入して煮る。後は塩で味を整える。それだけで完成だ。


「質素だけど、野営で温かい食事は嬉しいわね」

「そうですね。夜は冷えますし」


 ちなみに食事は、護衛の冒険者の分も含まれている。なので少し多めにクーリアはスープを作っていた。


「帰ったわよー。周辺は大丈夫そうね」


 スープがちょうど完成したタイミングで、サラ達が森の奥から出てきた。


「おかえり。もう出来てるよ」

「わーい!お姉ちゃんの手料理!」

「そんな大層なものじゃないけどね……」


 木の皿にスープを盛り付け、地面や馬車に座り食べ始める。


「はぁぁ…染みる」

「御者お疲れ様。明日も頼んだわよ」

「…言ったもんな、俺」


 そう。御者はヴィクターが望んだので、明日もしなければならないのだ。


「…代わろうか?」

「「「「絶対だめ!」」」」

「ひうっ?!」


 クーリアが代わろうかと提案すると、全員から勢い良く拒否されてしまい、思わずクーリアが悲鳴を上げた。


「な、なんで…?」

「なんでって……寝るでしょ?」

「うぐっ…」


 そう。クーリアが寝てしまうことを危惧していたのだ。本人の反応を見る限り、どうやら図星だったようだ…


「という訳で明日もよろしく」

「…ああ」

「分かったー」


 イルミーナはまだ元気そうだ。まぁほとんど御者をヴィクターがやっていたので、当たり前であった……。




 

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