第86話

 クーリアが構えた獲物。それは……短弓だ。

 学園長からもらった魔導銃もあるが、あまりに威力が高すぎるので、クーリアはこの武器を選んだ。


「距離は……ギリか」


 矢を番え、弓の弦を引き絞る。狙うは、一体の魔獣。今回馬車へと近づいてきたのは、猿型の魔獣だった。

 猿型は小型から大型までおり、木の間を飛んで移動するため、討伐はかなり難しい。

 ……だが、それは近距離しか攻撃手段を持たない場合に限る。


 ヒュッ!


 クーリアの放った矢が、風切り音を鳴らしながら魔獣へと襲いかかる。


「キキッ!」

「…ちっ」


 クーリアが短く舌打ちする。魔獣が木々の影に隠れた為、矢が当たらなかったのだ。


「中々の腕ね」

「………」


 クーリアは反応しない。ナターシャならば、先程の1発で仕留めていたと分かっているからだ。


「…この距離だと厳しい」


 短弓は小さく、取り回しがしやすい分、射程が短い。魔獣はまだクーリアのいる馬車から距離がある為、もう一度矢を放っても避けられるだろう。


「……2人に任せよう」


 今、クーリアに出来ることはない。風属性魔法を使えれば、追い風を利用して飛距離を伸ばせただろうが、生憎クーリアは使えない。


「あら。は使わないの?」

「……やっぱり知ってたんですね」


 ナターシャの言う、アレ。それは、魔導銃のことだ。


「当然じゃない。わたしのがあなたにあげたんだから」


 ……そう。実はナターシャは、学園長の孫だったのだ。それ故に、クーリアが魔導銃を持っていることを知っていた。


「で、使わないの?」

「……あれは威力が高すぎます。今ここで使う訳には…」

「ふーん…まぁ、確かにそうね。でも、そう言うってことはちゃんと持ってきてるんだ」

「………」


(墓穴を掘った…)


 持っていることがバレること自体は、問題ない。だが、持ってきたのかが問題なのだ。


「どこにあるの?」


(ほらきた)


「……教えません」

「え、なんで」

「何となく、嫌な予感がするから」


 ただの言い訳である。……だが、何となく心当たりがあるのか、ナターシャが顔を背けた。


「…何考えてたんですか」

「……クーちゃんが教えないから、わたしも教えない」


(……子供か)


 とクーリアは思ったが、口に出すことは無かった……。




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