第85話

 クーリア達が今回向かう目的地は、王都から少し離れた村だ。名前はないが、ある特殊な魔獣から採れる素材で作られた織物が有名だ。今回の校外実習は、それを買い付けに行くという名目だ。


 がたごとと馬車が揺れる。舗装などされていない道を通るのだから、当たり前だ。


「クー、大丈夫?」

「大丈夫だよ。リーフは?」

「…大丈夫です。まだ、平気です」


 それは大丈夫とは言わない。


「ほら、こっちきて」


 クーリアがリーフィアを側へと呼び、その背中を撫でる。


「どう?」

「…少し、楽になりました」


 リーフィアはそこまで馬車に乗ったことはなく、揺れには慣れていないのだ。その点クーリアは買い物などで王都の辻馬車を利用していた為、揺れには慣れている。


「……、さらっと凄いことしてるわねぇ…」


 ナターシャがクーリアの行動を見て、小さくそんなことを呟いた。サラやリーフィアには聞こえなかったようだが、クーリアにはハッキリと聞こえていた。


(…やっぱりバレた)


 一見するとクーリアはただ撫でているようにしか見えないが……その実、魔法を使っていた。

 無属性魔法。その内の一つ、干渉魔法。

 クーリアはこの干渉魔法を応用し、リーフィアの三半規管などに直接干渉して、強化や調子を整えていたのだ。


 ちなみに、干渉と名がついているが、そう大層なことは出来ない。自身の体に干渉するのが精一杯だ。

 ……なので、クーリアがやっている事は案外凄いことだったりする。しかし、その事に気づいたナターシャも、十分に凄い。


 ナターシャが何者なのか。それをクーリアは知っていた。そして、実際に会ったこともある。だからこそ、ナターシャは「また」と言ったのだ。


「そうだ。みんなはどんな武器を使うの?」


 ナターシャが暇を持て余したのか、そう聞いてきた。だが、これもれっきとした付き添い冒険者の役割だ。

 どれだけのことを想定し、準備しているか。また、そのことをしっかりと把握できているか。それを評価するのだ。


「わたしは魔法主軸なので、杖です」


 まずリーフィアが答えた。体術も出来なくはないが、魔獣相手には厳しい。なので、魔法を補助する為の杖を武器として選んだ。


「わたしは短剣と投げナイフです」


 サラは魔法が使えるが、得意な火は森では扱いずらい。風も得意だが、乱戦になった場合味方に当たる可能性がある。なのでサラは、武器を近距離用の短剣。それと、中、遠距離をカバーする為の投げナイフにした。


「じゃあ最後は。教えて」


 クーリアの表情が引き攣る。前からそう呼ばれていたが、人前、ましてや友人と妹の前で言われるなんて想定していなかったからだ。


「え、えぇっと…」


 動揺しながらも、クーリアが自身の武器を言おうとして…馬車が止まった。


「みんな、魔獣だ。数は…5。前方2。後方3」


 御者台からヴィクターの声が聞こえる。


「数はちょうどいいわね。前は任せたわよ」

「ああ、無論だ」

「じゃあ行きましょう。クーは…もう居ないわね」


 クーリアは、もう既に馬車から姿を消していた。正確には、幌の上へと移動していたのだ。


「じゃあ行きましょう」

「はいっ!」


 サラとリーフィアが馬車から降りる。ナターシャも共に降りるが、極力手は出さないので馬車の傍で待機するようだ。


「さてと……まぁボチボチやりますか」


 クーリアがそう呟き、自身の獲物を構えた。



 

 

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