第84話

 校外実習の説明を受けてはや数日。とうとうその日がやってきた。


「緊張する?」

「大丈夫だよ!」


 クーリアが心配そうにリーフィアに話しかけるが、リーフィアはそれに笑顔で答えた。どうやら本当に大丈夫そうだ。


「女子3人か…」

「なにヴィクター、気まずいの?」

「いや…護れるだろうかと」


 ヴィクターの心配は最もである。先生からも男子は女子を出来る限り護るべきだと言われている。場合によれば魔獣との戦闘も考えられるのだ。その時頼りになるのは男子しかいない。


「護らなくてもいいよ?」


 ……だが、それはこの班には当てはまらなかった。サラ、クーリア、リーフィアは魔法での戦闘力が高く、また体術も心得ている。ただ護られるだけの存在では無いのだ。


「…その言葉を聞いて安心はするが、1人の男としてそれもいかがなものかと…」

「堅いなぁー。まぁそれがヴィクターのいいとこなんだけどぉー」


 イルミーナがヴィクターの頬をつつく。


「気持ちは分かるけど気楽に行こうよ。ずっと張り詰めてたらいざってとき倒れるよ?」

「……そうだな。まぁ危険が迫れば冒険者の人もいるんだしな」

「そうだよー!じゃあ行こっ!」


 イルミーナを先頭とし、集合場所へと向かう。

 

「全員いるかー!説明するぞー!」


 ナイジェルが念の為もう一度概要を説明する。その後担当する馬車へと向かい、そこで待機していた冒険者と合流した。


「わたしがここの担当、ナターシャよ。よろしくね」


 担当する冒険者は女性だった。ほかの班に比べて女子が多いというのが、選ばれた1つの理由だろう。


「班長のサラです。よろしくお願いします」


 一応班長という役割は存在し、満場一致でサラが班長となった。


「リーフィアです!」

「ヴィクターです」

「イルミーナでーす!」

「……クーリアです」

「…「「「よろしくお願いします」」」」


 それぞれが自身の名前を呼び、ぺこりと頭を下げる。

 ……だが、何故かクーリアは浮かない顔だ。


「どうしたの、クー?」


 そんな様子に真っ先に気付いたのは、サラだった。


「……いや、ちょっと、ね」

「なに?体調悪い?」

「大丈夫」

「……何かあったら直ぐに言ってよ?」


 サラはクーリアが話す気がないと理解し、最後にそう言う。

 無理に入り込もうとしないサラに感謝しつつ、クーリアは短く「うん」とだけ答えた。


「じゃあ行きましょうか。みんなそれぞれの持ち場についてね」


 ナターシャの号令で、それぞれが予め決めていた持ち場に動きだす。

 御者はヴィクター、イルミーナが担当し、他の3人は馬車の幌の中で待機する。

 役割を決めるにあたって、御者は男がやるべきだというヴィクターの意見が通った。1番危険な場所でもあるからだ。


「うんうん。テキパキしてていいわねぇ」


 満足そうにナターシャがそう呟き、最後に馬車へと乗り込む。

 それを合図に、馬車はゆっくりと進み始めた。





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