第63話

 次の日。いつものように学園へ向かおうとして、扉を開けると……


「おはよう、クー!」


 ……何故かサラがいた。


「……なんでいるの?」

「あんなことがあったのよ?一緒に行きましょ!」

「いやそれならサラがここまで来るほうが危険……」


 クーリア、正論である。貴族が住む場所から迎えに来るというのも危険なのだ。寧ろそちらの方が危ない。


「いいのよ。いくわよ」

「あっ!ちょっ!」


 サラはこれ以上言わせないよう、クーリアの手を引いて学園へと向かった。





「おはよー」

「おはよう」


 教室へと入ると、イルミーナとヴィクターが2人を出迎えた。

 今ここにいる今回の事件を知っている生徒は、クーリアを含めた4人のみ。なので騒ぎになることはない。


「おはよう」

「おっはよー」


 ……何故かサラは先程から上機嫌だ。その理由が……


(クーと手を繋いで学園に来たの初めてっ!)


 ということらしい。まるで好きな人と初めて手を繋いだことが嬉しい、という考え方であった。


「大丈夫か?」


 ヴィクターが心配そうにクーリアへと話しかける。その問いかけに対して、クーリアは少し微笑みながら「大丈夫」と答えた。


(あー……さっきのクーの微笑みで沈んだの、何人かいるわね)


 教室を見渡し、サラはそんなことを思いながら軽いため息をついた。


「どうしたの?」

「……なんでもないよ」


 平然を装い、サラは自身の席へと座った。クーリアもまた、自分の席へと座る。そして机の下の引き出しに手を入れて……首を傾げた。


「どうしたの?」

「いや…何かある…?」


 クーリアが引き出しから、手に当たったものを取り出した。


「……本?」


 それは1冊の本だった。……しかも、それはとても見覚えのある本であった。


「……これ、サラが見せてくれた本だよね?」


 そう。以前サラの屋敷でクーリアが見せてもらった、無属性の魔法書であった。


「そう、みたいだね」


 反応からして、サラの仕業ではないのだろう。

 クーリアはその本を開き、中に一通の手紙が入っているのを発見した。

 その手紙に書かれた差出人の名前を見て……ため息をついた。


「え、どうしたの?」

「………」


 クーリアは無言でサラにその差出人の名前を見せる。そして、サラはその名前を見て……顔を顰めた。


「そう言えば貸してくれって言われたわ…」

「……返しといてくれる?」


 クーリアはもう既にこの魔法書の内容を暗記している。なので、今更読む必要は無いのだ。


「……うん。うちのバカがごめんね」

「……にバカはないと思うな」


 そう。この手紙の差出人。それはサラの兄だったのだ。


「だって…これ絶対クーが返す時に話するためとかだよ?下心丸出しじゃない。バカよ」


 一応実の兄なのだが……サラ、かなり毒舌である。

 そんなサラの言葉を聞き、クーリアは苦笑を浮かべるのだった。


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