第62話

 しばらくリーフィアがリーヴォを撫でていると、クーリアが口を開いた。


「で、用件は?」

「………会いたかったから?」

「疑問になってる時点で違うでしょうが……勉強?」

「…うん。悪いんだけど、また教えて貰ってもいい?」


 実は、クーリアはたまにリーフィアの勉強を手伝っていた。身近な人として兄2人がいるのだからそちらに聞けばいいものだが、ある理由から、リーフィアはクーリアに教えて貰っているのだ。


「それくらい何回でも大丈夫だよ。じゃあわたしの部屋に行こっか」


 クーリアとリーフィアは、ともに2階のクーリアの部屋へと入っていった。


 そして狭い部屋に2人隣同士で座り、狭いテーブルの上に教科書とノートを広げる。


「ここなんだけど……」

「んー?あぁ、これはね……」


 勉強の方法としては、リーフィアが分からないところを尋ねて、それをクーリアが教えるといういたって単純なもの。だが、リーフィアはそれだけで十分だった。クーリアの教え方が上手いというのもあるが、リーフィアの頭の回転が速いためだ。そのためすぐに理解する。


「ふぅ…なるほど。ありがとう。お姉ちゃん」

「いいよこれくらい。でも、毎回お兄ちゃんに聞いた方が早くない?」

「そうだけど……わたしがやってるの、これだし」


 リーフィアがテーブルの上に広がっていた教科書を持ち上げ、その表紙をクーリアへと向ける。そこには、確かに2と書いてあった。

 今リーフィアが通っているのは、3。つまり、かなり先の内容なのだ。


「それくらい気にしないと思うけどねぇ」

「だって…お姉ちゃんだって隠してるじゃない」


 それを言われると、クーリアは反論出来なかった。もう既に全ての学習を、独学で理解していることを隠しているからだ。


「まぁ、リーフがいいなら、いいけど」

「やった!」


 実の所、リーフィアはクーリアに会う口実を作るために隠していたりするのだが……それをクーリアが知ることは無かった。


「ゴホッゴホッ!」

「お、お姉ちゃん、大丈夫?」


 突然ハンカチを口に当ててクーリアが咳き込む。それをリーフィアが心配そうに見つめた。


「……うん、大丈夫」


 クーリアはそう言い、ポケットへとしまった。


「なら、いいけど……あ、そうだ」


 ゴソゴソとリーフィアが持ってきていた鞄をあさる。


「あ、あった。これ、使って?」


 リーフィアが手渡してきたのは、1本の茶色い小瓶だった。中には何かしらの液体らしきものが入っている。


「これは?」

「咳止め。前来た時も咳き込んでたでしょ?だから持ってきたの」

「……ありがとう。大事に使うね」


 クーリアは小瓶を受け取り、部屋のタンスへとしまった。


「寝る前にスプーン1杯分を目安に飲んでね」

「うん。ありがとう」

「いいよ、これくらい。あ、じゃあもう行くね」


 時計をみて、リーフィアが帰る支度を始める。


「またね」

「うん……といっても、またすぐ会えそうだけど」

「うん?」

「なんでもないよ。じゃあね!」


 そう言って、リーフィアは帰って行った。

 リーフィアのことを外まで見送ったクーリアは、その後ろ姿が見えなくなるまで眺めた後、自身の部屋へと戻り、タンスから、リーフィアから貰った小瓶を取り出した。


「咳止め、ねぇ…」


 クーリアはその小瓶をしばらく眺めたのち……その中身を捨てた。


「これは受け取れないや……ごめんね」


 まるで思わずといった様子で口から出た小さな謝罪は、静かな部屋に消え去っていった……








 

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