第14話

クーリアが向かったのはいつもの祖父母のパン屋…ではない。

本当はそちらへ先に行き、制服を着替えて新しい父親の家に行く予定だったのだが、職員室に呼ばれた結果時間が無くなってしまったのだ。なのでそのまま向かう。


「ひぃー!間に合うかな…」


フィーリヤと新しい父親は、この日をいつも楽しみにしている。故に遅れると怒鳴られる……ことはないが、その理由を聞かれる。今回それが職員室に呼ばれたからだと答えれば……


「絶対ヤバい」


青みがかった長い銀髪をなびかせながら、クーリアは走る!走る!

そして道行く人が、その様子を微笑ましく見守っていた。この光景を何度も見たことがあるからだ。


……つまり、それだけ何度も遅れかけたということである。



走りに走って、クーリアはとても大きい屋敷の前で立ち止まった。その屋敷はゆうに祖父母のパン屋の5倍はある大きさで、白を基調としたとても綺麗な建物だった。


クーリアがその屋敷の門の前に立つと、ひとりでにその門が開いていく。クーリアはそのまま中へと足を踏み入れた。


「お帰りなさいませ、クーリアお嬢様」


屋敷の入口で執事姿の男性が、クーリアにそう言った。そう。この屋敷こそ、クーリアの新しい父親の家なのだ。


「ただいまです。ママとパパは?」

「もう既にお待ちです。先にお着替えになりますか?」

「いえ、このままで」

「かしこまりました。どうぞこちらへ」


執事の人に先導され、クーリアは屋敷の中を歩く。

そしてしばらく歩くと、ひとつの扉へとたどり着いた。執事がその扉を開け、その中へとクーリアを案内した。


クーリアが入ったのは大きな部屋。そこにはテーブルと椅子が並び、テーブルの上にはまだ温かそうな食事が乗っていた。


「おかえり、クーリア」

「おかえり、クー」


先に座っていたフィーリヤと男性がそう言った。


「ただいま。ママ、パパ」


クーリアもそう返し、フィーリヤの隣の椅子へと腰掛けた。


「では頂こうか」

「ええ」

「うん」


父親…フェルナスの言葉で食事が始まる。並べられた食事は多少高い物を使っているが、そこまで高価ではないものばかりだ。というのも、クーリアが庶民が食べられる物じゃないと食べないと言ったからである。贅沢はあまり好まない。これにはフェルナスも驚きを顕にしたが、直ぐに納得してくれた。そもそもフェルナスも、そこまで高いものは好きではなかったようなのだ。


「学園はどうだい?」

「楽しいよ?」

「友達はどうなの?」

「うーん…まだ増えてない」


正直クーリアは増やす気もないのだが。


「そうか。今日は何をしたんだい?」

「えっと…数学で魔力計算。で、その後実技をしたよ(私はしてないけど)」


最後の小声は聞こえることはなかった。


「そうか。分かったのかい?」

「うん!」


……クーリアが学園で習う授業内容をもう全て理解しているということは内緒だ。これはフィーリヤでも知らない。


至って普通な会話で、食事が進んでいく。


「そういえば、なんで今日は遅かったの?」


フィーリヤが唐突にそう言った。それを聞き、クーリアの背中に冷や汗が流れる。


「ちょっと色々あって…」


そう言って口ごもるクーリア。無論、そんな様子を見逃すフィーリヤではなかった。


「ふふふっ。なにが、あったのかしら?」


隣に座るクーリアへと笑みを向けながらそう尋ねた。もうクーリアの背中はびしょびしょだ。


「…職員室に呼ばれた」

「なぜ?」

「……終礼に遅れたから」


クーリアは顔を逸らしながらそう答えた。


「そうなの。ならいいわ」

「へ?」


思わず口をぽかんと開けて、素っ頓狂な声を出した。


「あら、そんなに意外?」

「だって前は怒ったし…」

「そうね。でも、先生から次はやめろって言われたでしょ?」


うっ!…てか情報早くない!?


クーリアは自身の母の情報網の広さに、少し恐怖を覚えたのだった…







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