第15話

「次からはちゃんと気をつけるのよ?」

「は、はーい」


クーリアが思う絶対に逆らってはいけない人。それがフィーリヤだった。


「時間管理はしっかりとな」

「うん」


フェルナスとの会話は少ないが、クーリアにとっては十分だった。なにせ、前の家では父親と楽しく会話するなど不可能だったからだ。


「まだ…こちらに移る気は無いのか?」


躊躇いがちながらも、フェルナスはそう切り出した。無論移るとは、クーリアがこの家に住むということだ。


「まだ、というか、来る気はないかな。だって私はあっちの方が好きだもん」

「そうか…」


クーリアがそう答えると、フェルナスは悲しそうな表情でそう言った。


「ふふっ。まぁクーの気持ちも分かるけどね」


フィーリヤがクーリアの青い銀髪を指ですきながら、クーリアに笑いかける。


「でも、いずれはこっちに来てくれないと私が寂しいわ」

「うっ!それは…」

「ふふっ。冗談よ。あなたはあなたの好きな方で住むといいわ。でも、今日は一緒にお風呂に入りましょ?」

「うん!」


クーリアは元気よく頷いた。もう15歳になったが、いつまでもクーリアは自分の母が大好きなのだ。


「私も…」

「「やだ」」


フェルナスの要望は、母娘2人で却下された。





場所は移り、屋敷の風呂場へ。


「いつ見ても大っきい…」


…胸ではない。浴槽が、だ。


「そうねぇ。クーはお風呂好き?」

「うーん…まぁ好き」

「そう(好きって断言したらこの家に誘う口実になったのに…)」


そんなフィーリヤの心の声は、もちろんクーリアには届かなかった。


まずは湯船に浸かる前に、体を洗う。


「洗いっこしましょうか」

「うん」

「じゃあまず髪からね」


フィーリヤがクーリアの髪を洗っていく。


「クーの髪はいつ見ても綺麗ね」

「そう?」


クーリアの髪を見ながら、うっとりとした表情でそう吹いた。ちなみにフィーリヤの髪色は黒だ。庶民にありふれた色。


「でも、なんでクーの髪はこんな色なのかしら?」

「さぁ?」


実はクーリアの父親の髪色は朱色だったのだ。兄2人や妹はそれを受け継いでいたが、クーリアだけ違ったのだ。それも、どこからの遺伝なのかも分からない青みがかった銀髪。故にクーリアは別の子供じゃないかと思われてしまった。だが、フィーリヤは結婚してから家を出ることを許されず、加えて、結婚する前に異性と何かしらの関係を持ったこともない。つまり正真正銘、クーリアは実の子なのだ。


「不思議なこともあるのねぇ」

「そうだね」


クーリアも不思議でしょうがない。だが、どうやっても分からなかった。本にすら載っていなかったのだ。


可能性としてはママの先祖…だけど、よく分からないしなぁ…


前の父親の家系はしっかりと記録が残っていたため、調べることができた。しかし、それに銀髪の人はいなかった。そうなると、必然的にフィーリヤの家系が関係しているはずなのだが…一介の庶民がそんな記録を持っているはずも無い。とどのつまり、髪色の原因は分からなかった。


ま、いっか!


クーリアはそう思った。そもそも大して興味がなかったのだ。ちょっと気になったから調べてみただけに過ぎなかった。


「あ、次は私ね」


そんな事を思い出しているうちに、クーリアの身体中全て洗い終わっていた。次はクーリアがフィーリヤを洗う番だ。


「洗う…届かない」

「あ…」


………クーリアは少々平均身長より小さかった。






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