第10話
「クーリアァァァ!!」
だだっ広い運動場でいきなり叫んだのは、ナイジェルだ。さけんだ理由はただ1つ。
「また戻らなかったなぁぁ!!」
そう。2時間経ってもクーリアが戻ってこなかったのである。
別に図書館は時間制限などはない。だが、一応は授業中なのだ。そのためクーリアは、終礼までには帰って来なくてはならなかったのだ。
「ねぇねぇ。これで何回目だっけ」
サラがヴィクターに尋ねる。
「確か…5回目か?」
「違うよ。7回目だよ」
ヴィクターの間違いをイルミーナが訂正する。
「クーはほんとに懲りないわねぇ…」
そう吹くサラは呆れたような、それでいてブレないクーリアに嬉しさを感じているようでもあった。
「あいつ!今度こそ呼びだ…「呼びました?」し…」
ナイジェルがバッと振り向くと、そこには悪びれる様子が全くないクーリアが立っていた。
「お、お前いつの間に…?」
ナイジェルが驚くのも無理はない。何せクーリアが立っていたのはナイジェルの後ろ。そしてナイジェルはずっと運動場の入り口を見ていたのだから。
「さっきからいましたよ?」
「んな訳あるかぁぁ!」
運動場にナイジェルの叫びが響き渡った。そしてその叫びは同じクラスの生徒の気持ちも表していた。
「えっとー…すいませんでした。ちょっと集中し過ぎてて…」
「そういうことを聞いてるんじゃない!」
ナイジェルがそう言うと、クーリアは心底面倒くさそうな顔をした。今では友人と話すことが多くなり、ある程度感情を表に出すことが多くなっていた。
……もっとも、それでも親しい人にしか気付くことができない程の変化なのだが。
「いいじゃないですか。それより終礼しないんですか?」
「だぁー!これで授業を終わる!そしてクーリア!後で職員室に来い!」
最後にそう言って、ナイジェルは去っていった。
「うぇー…めんど」
「仕方ないわよ。クーが悪いんだから」
ズーンと気持ちが沈んでいるクーリアを、サラが慰め…てはないが、励ました。
「それより、どうやって?」
ヴィクターはそんなことより、クーリアがどうやって現れたのかが気になって仕方がなかったらしい。
「どうやってって…普通にポーンって」
「「「ポーン?」」」
3人とも全くもって理解出来なかった。
……もちろん、クーリアがわざと理解できないようにしたのだ。
(ホントの事を言えば、それこそ一大事になるのは目に見えてるもんね…)
クーリアでも、それくらいの常識は持ち合わせていたのだ。
「じゃあまたね。早く行って帰らなきゃ」
「あ、ああ…またな」
3人に別れの挨拶を告げ、クーリアは職員室へと走っていった。
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