無様! ハイシャイ・ラボ壊滅!(1)

 格納庫ハンガーに行きう人混みを縫って、一拓いったく冬羽とわは【ゴダイヴァ】へ向かった。

 作業員がふだんより多いのは、大勢の自衛隊員がいるせいだった。

 科にもよるが、自衛隊といえば取得できる実用資格には定評がある。設備は既存の流通品なので、有資格者なら操作できるのだ。

 もちろん四方据よもすえ工業の顔ぶれも健在で、ときどき物のありかをたずねられたりしていた。


 ふたりが乗り込み、【ゴダイヴァ】を吊っているクレーンが巻き上げられていく。

 防御よりも動作の自由度を重視され、腰部装甲は引き続き除去されていた。追加バッテリーもそのままだ。


 船渠ドックに、鋼鉄の未亡人が立ち上がった。

 頭上では雲が青天を隠し始め、眼前の海はざわめいていた。





 コクピットに通信が入った。横山だ。

作戦説明ブリーフィングにもあったように、過去三例と同じ近接格闘戦による敵の無力化です。

 ただ今回は、海上保安庁、陸上自衛隊との協力行動です。基本【ゴダイヴァ】は自動操縦ですが、指示があった場合は手動に切り替えてください。

 また、最悪の事態になっても、後方に戦車部隊が待機しています。退避してもらう場合があるかもしれませんが、そのときは連絡します』


 近隣住民の避難は完了している。

 今回の守秘義務は自衛隊も絡む重大なものだ。一拓いったくは家族に、避難に参加しない理由を出張のためと伝えていた。





 移動のコマンドを入力し終え、しばらくの沈黙の後、冬羽とわがつぶやいた。

「これが、四体目…………最後なんだな」


 声にこもる切実さを感じ、一拓いったくは隣席を見た。

 同乗者はくちびるを噛みしめ、思いつめた表情だった。


 最初のロボットに、彼女の父は乗っていなかった。

 では次は?

 その次は?

 冬羽とわはいままで、ロシアンルーレットに挑むような気持ちで【ゴダイヴァ】のシートに座ったのではないか。


 ――――いや、

 乗っていれば、戦う相手は父。

 乗っていなければ、父を探す手がかりは遠ざかる。

 どちらの目が出ても、向かう先は行き止まりデッドエンド

 そんな戦いを、冬羽とわは続けてきたのだ。


「お父さんはきっと無事ですよ。必ず一緒に帰りましょう。

 そしたら今夜はお祝いのパーティですね。プリン、食べ放題ですよ」

 一拓いったくはせいいっぱいの笑顔でことばをかけたが、冬羽とわの表情はまだ固い。


冬羽とわさん、いったじゃないですか。『安心して【ゴダイヴァ】に任せろ』って」

 というと少しムッとして、

「だいじょうぶだ。キミ、心配しすぎだぞ」

 強がるだけの余裕は出てきたようだ。


 …………しかしふたりとも、恥力ちりょくジェネレータを起動できる心理状態とはとうてい思えなかった。





具象ともぞうさん、美和です!

 聞こえてますか? そこにいるの?』


 予定どおり、放送設備を使って呼びかけを開始する美和。

 このために、野外音楽イベントで使用する超大型のスピーカーを借りてきた。数百メートル先の【ジェイソン子】にはじゅうぶん届くはずだ。

 もし搭乗者アキュパントがいなかったとしても、拾った音声を黒幕に送信している可能性はある。


 雲は見る見るうちに厚くなり、やがてポツポツと雨粒が落ちてきた。





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