慚愧! 未亡人、華麗なる艶舞!(5)

 明くる日、美和は朝イチで警察に出頭した。


 夕えの海で戦う二体のロボット。

 その姿はすでにネットに拡散され、ニュースでも取り上げられている。

 もはや知らぬ存ぜぬで通すことはできなかった。


(さあ、ここからが勝負よ……)

 美和の決意は誰も知らない。

 もちろん、冬羽とわも。





※ここからしばらく、退屈な内容が続くぞ!

 めんどくせーのはイヤなり……とお考えの読者諸君、次の※マークまで飛ばしていただこう!(今後も)


 さてしかし、高恥研はどういう容疑で調べられるの?

 三度に渡る戦闘で、損害を受けたのはロボットだけ。誰も死んでないし、負傷といえば一拓いったく冬羽とわの軽い打撲くらい。


 ――――警察が大規模テロを想定しているならば、まず浮かぶのは内乱罪、破壊活動防止法、団体規制法といったあたり。

 が、これらは適用の実態、成立の背景や要件などから考えて難しそうだ。

 前世紀末に日本じゅうを震撼しんかんさせた、カルト教団によるテロ事件でさえ、これらは適用されなかった(団体規制法はその事件をきっかけに制定された)。

 巨大ロボット同士の戦闘とはいえ、周辺に被害は出ていない。衝撃では上回っても、与える恐怖という点では及ぶまい。


 近いところで、騒乱罪。

 いち地方における公共の平穏を害する程度でも、人ではなく物が対象であっても成立する。この点ではいけそうだ。

 しかしこの罪が想定するのは、暴動やデモ。

 要件である「多衆たしゅう」に明確な定義はないが、過去の判例では千人単位の規模。

 三〇人程度の適用例もあるとはいえ、この事件が果たして該当するのか。


 固いのが、器物損壊罪の線。

 現に三体の【敵】ロボットが破壊されている。

 だがその所有者は判明していない。冬羽とわの父なのか、カルト教団なのか。いっそ調べてもらって教えてほしいくらいだ。


 凶器準備集合罪、というのもある。

 騒乱罪と同様、物が対象であっても成立する。また、自衛目的の迎撃にも適用可能、と解釈されている。

 ただ、ダンプカーはひと目でわかる凶器とはいえない、として控訴棄却こうそききゃくされた判例があるから、巨大ロボットにも当てはまらないのではないか。

 そもそも、暴力団や半グレの抗争を未然に防ぐ目的のものではある。そのためにわざわざ巨大ロボットを造るとも思えない。


 むしろ、労働安全衛生法がらみのほうが心配だ。

 危険のある機械などを設置するときに必要な届出を、しているのか。

 搭乗者の安全は保障されているのか。

 第一、就労者である一拓いったくに対し、事前に業務内容を伝えていなかったではないか。

 また、AIによって完全制御されるロボットに関しては、まだまだじゅうぶんな議論がなされていない。


 が、警察は刑事事件として動きたいのであり、ことの経緯をつまびらかにし、二度と起こらないようにしかるべき措置を取って、世間に安心してもらわなければならないのだった。


 高恥研の従業員一同もおとなしく取り調べを受けたが、さすがに冗長なので割愛する。カツ丼は出なかった(逮捕でなく任意同行の場合、注文すれば食べられるという話もある。もちろん代金は自分持ち)。




 出頭の前夜。


『――――でも、お父さまが!

 お母さまはお父さまを助けたくないんですか?!』


 聞き取り調査にきた警察を、冬羽とわは締め出そうとした。

 美和が止めなければ、全員が強制的な連行をまぬがれなかっただろう。


 そのときの叫びが、一拓いったくの耳にまだ残っている。


『私はお父さまを助けたいんです!』





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