慚愧! 未亡人、華麗なる艶舞!(3)

 コクピットの通信ランプが点灯し、スピーカーから永井の声が流れた。

冬羽とわさん、一拓いったくくん。よく聞いてください。

【ゴダイヴァ】の腰部ようぶ装甲を、手動でパージしてもらいたいんです』


 初めて聞く機能だ。

 それもそのはず、練習用のアプリにはついていない。

「え? は……はい。でも……」

 一拓いったく、横目で冬羽とわを見る。

 まだ回復していなかった。よっぽど落ち込んでいるらしく、会話も耳に入っていない。

 一方、永井に忖度そんたくはなかった。

『緊急です。パージは遠隔操作できません。いまからやり方を説明します』

 否も応もないらしかった。


「わかりました。それで」

 覚悟は決めた。それでもやっぱり、知らないことを聞くのは恥ずかしい。とはいえ恥ずかしがっている場合でもなかった。

 勇気を出して、たずねてみた。


「……パージって何ですか?」

『まず、メニュー画面から「特殊」を開いて』

 質問は無視された。永井、なにげにひどい。





【シャム子】は相も変わらず、防御とも攻撃ともつかないネコパンチ。

【ゴダイヴァ】はそれをいなしながら折を見て反撃しているが、牽制けんせい目的なのか、やはりたいした効果を挙げていなかった。


 四方据よもすえ社長もたとえたように、腰部装甲は膝丈ひざたけスカートのような外見だ。

 独立した六枚のプレートがそれぞれ、ワイヤーで直接骨格フレームにつながる構造なので、一応の可動域は確保されている。

 といっても所詮しょせんプレート。歩行の妨げにはならなくても、蹴りを出すには邪魔なのだ。


 ゲージが輝いても積極的な攻勢に出ない【ゴダイヴァ】は、まるで待っているようだった。

 彼らが彼女に与えてくれる、チャンスを。

 ……そこまで考えていない気もするけど。





「画像出ました!」

 永井の指示に従い、一拓いったくはようやく最後の操作までたどり着いた。

 画面には【ゴダイヴァ】の全身像が表示されている。

『色違いの場所があるよね? それが装甲。

 腰の部分にタッチすれば、完了だ』

「タッチしました!」


 火薬式のカッターが作動し、


 ――――ガヅンッ


 ワイヤーが切断され、


 ――――シュバアァ!


 圧縮空気がプレートを吹き飛ばす。





『やりました! 強制排除パージ、成功です!』

 コントロールルームの歓声が、コクピットまで漏れ聞こえてくる。

 その音声と、パージの衝撃とで、冬羽とわはようやくわれに返ったらしい。


「……どうしたんだ? 何があった?」


 まだ震えの収まらない手を隠し、一拓いったくは励ますような笑顔で伝えた。


「動かしたんですよ、冬羽とわさん。

 あなたが、【ゴダイヴァ】を」





 荒ぶる電子音!

【ゴダイヴァ】のバイザーに、光の二重破線が交差する!!





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