慚愧! 未亡人、華麗なる艶舞!(2)

 ゲージが点滅を始めた。


「つべこべいわずにさっさとやれ!」

 わずかに顔をのぞかせた今日のブラは白。パッドなしでもしっかり谷間を作るいい仕事ぶりだが、目を三角に吊り上げられては気分が台無しというもの。そこがいいという性癖もあるだろうが、いまはそんな話はしていない。


「これまでやってきたようにやればいいんだ!」

 グイグイ詰め寄る。


 一拓いったくがコクピットの一割スペースまで追いやられたとき、美和からの通信が入った。

冬羽とわ、いい加減にしなさい! 感情に任せて怒鳴ったって、無理なものは無理でしょう?』

「でも、お母さま!」


 叱咤しったされ、抵抗する冬羽とわに、美和は告げた。

『あなた、わかってる?

 一回目は裸を見られて。

 二回目は共感性羞恥しゅうち

 ……いままで【ゴダイヴァ】に恥のエネルギーを供給してきたのは、一拓いったくくんなのよ?』


 冬羽とわは雷に打たれたように目を見開いた。

「なんですって?」





 賢明な読者諸君はすでにお気づきだったことと思う。

 もっとも、誰の感情かは表示されないから、冬羽とわがわからなかったのはしかたない。

 実は、恥力ちりょくを検出する手段がないのだ。


 しかしこうやって指摘されると、一拓いったくあらためて恥ずかしい(バッテリーの残量が微増した)。

「なんでわかるんですか……」

『過去の通信記録も聞いたし、あなたを採用したのだって、その恥ずかしがり屋の性格が理由よ。

 だいいち、冬羽とわは私の娘ですもの。母親がそのくらいわからないでどうするの』





「そんな……それでは、私は……」

 一瞬にして青ざめた顔が、今度は見る見る紅に染まっていく。


「【ゴダイヴァ】を動かしていたのは私ではなかったの?

 それなのに私は…………いままでずっと、かんちがいして……」


 冬羽とわは、伏せた顔を両手でおおった。

 それでも、長い黒髪の隙間からのぞく耳の赤さまでは隠せなかった。


 天下に乳房をさらそうと恥もひるみもない。

 そう思っていた鉄の女が、初めて見せたもろさ。

 一拓いったくは声をかけたかった。

 けれど、できなかった。





 ――――そのとき!

 ゲージに刻まれた幾何学のラインを、光が走った!

 描く文字は!

 G! O! D! I! V! A!

 かつてないほどの輝きだ!!





 だがしかし!

「さっきので実証済みだ。頑丈がんじょうな装甲を抜くには腕の力じゃ足りない」と悲観的な永井。

「蹴りを出してくれればいいんですけどね……」応じた横山の表情もすぐれない。


「どうしてAIは蹴りを選択しないんだ? やっぱり戦場が蹴りに向いていないからか?」

「いえ、ローならともかく、ミドルやハイは打てるはずなんです。

 ムエタイやテコンドーでは、これらの蹴りは膝を高く上げた構えから出します。だから、少なくとも蹴り脚は水の抵抗を受けません。

 ちなみに、この構えは相手にとってどの軌道から蹴りがくるのか実際に飛んでくるまでわからないので判断をいるという意味でプレッシャーをかけるのに極めて効果てk」

「ちょっと待ってください」


 割り込んだ声に、一同はふり返った。

 スイッチの入った格オタ語りを体当たりで止める、その勇気に感心したから……ではない。

 それは、意外な人物だった。


「あのお嬢さん……いや、あの未亡人は、フレンチカンカンを踊りたいんですよね?」


 進み出たのはサル顔の冴えないオヤジ、四方据よもすえ社長。美和に呼ばれて、コントロールルームに顔を出していた。

 帽子を両手で握りしめているが、単に人前でしゃべるのに慣れていないだけだろう。何しろこの道ひとすじ四〇年のベテラン職人である。

 朴訥ぼくとつな、それでいて堂々たる口ぶりで、提案した。


「脱がせましょう。未亡人の、スカートを」





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