忸怩! 明かされた敵の正体!(6)

「……でもね。つじつまが合う部分もあるの。

 四方据よもすえ社長がいってたでしょう。襲ってきたロボットは、【ゴダイヴァ】と同じ部品を使ってる、って。

 同じ人間が設計してるのよ」

 決定的とはいえないが、有力な判断材料ではある。


「それとね。ここに『水曜日』って書いてるでしょう」

 美和は追伸の部分を指さした。

「はい」

「水曜日は、彼にとって特別な日だったのよ」

 そういって、美和は遠い目をした。


「――――もう十六、七年前になるかしら。

 業ヶ崎ごうがさきは才能をなかなか認めてもらえなかったし、私は彼のぶんまで稼がなきゃいけなかった。すれ違いで、たまに顔を合わせても衝突することが増えていったわ。それで別居することにしたの。

 まだ冬羽とわがほんの小さかったころよ」

 美和は初めて母親の顔をした。


業ヶ崎ごうがさきは娘を、それこそ目に入れても痛くないくらい可愛がっていた。

 冬羽とわも父親のことが大好きだったわ。

 ふたりを引き離すのは私にとってもつらかった。だから週に一度だけ、面会日を設定したの。

 それが、水曜日」


 一拓いったくには、これまでのロボットたちと【ゴダイヴァ】が、娘に会うために家路を急ぐ父と、父を待ちわびる娘の姿に重なって感じられた。


「結局、私は業ヶ崎ごうがさきの希望をかなえることにしたわ。

 見てのとおり、この高恥研を立ち上げて、【ゴダイヴァ】を整備させたってわけ。だってそれ以外に手がかりがないんですもの。

 もちろんおおやけにすることができないのはわかるわね?」


 それはそうだが、実行に移すのも相当の肝っ玉。女傑である。





「【ゴダイヴァ】が決して相手の胴体を攻撃しないことに気づいた?」

 美和に問われて、一拓いったくは首を振った。

「そういうふうに設定してるのよ。

 ……あの子は、父親が乗ってるんじゃないかと心配してるの」


 一拓いったくは思い出した。

 ――――倒したロボットの残骸を回収するときはいつも、冬羽とわが悲痛な表情を浮かべていたことを。


 そして、そのロボットは【ゴダイヴァ】と同じ骨格フレームを持っている。

 コクピットがあるとしたら当然、胸部と考えられる。


 さいわい、これまでの二体は無人だったのにちがいない。

 しかし、メールの文面を信じるなら、ロボットはまだ二体を残しているはずだ。


「あの子は父親を救うために計画に参加したわ。

 もちろん、私にもその気持ちはある。

 でも、私のいちばんの目的は、業ヶ崎ごうがさきを止めて、しでかしたことの責任を取らせることよ。

 それが無理なら、私が責任を取る。そういうつもり」





 ――――そして、水曜日がきた。


 例によって、一拓いったくは前夜から現場入り。【敵】ロボットの来襲まで待機だ。

「お疲れさまです。じゃあ、後はお願いします」

 仮眠を終えた冬羽とわと交替して、宿直室へ。


 布団を持ち上げた拍子に、ハラリと落ちた長い髪の毛。

 冬羽とわのにおいが、不意打ちのように香った。

 あわてて戻し、別の布団を下ろした。





「…………きませんね」

 あくびを噛み殺しながら、横山。

 永井は一拓いったくと入れ替わりで仮眠中だ。


「まあ、業ヶ崎ごうがさきのいうことですからね……」

 美和は顔をしかめたが、疲れたようすは見えない。


 医務室のベッドでは、なでこ先生がいびきをかいていた。

 入れ替わり立ち替わり仮眠をとるので、コントロールルームの顔ぶれがそのつど変わる。一拓いったくも、用もないのに事務所と四階をいったりきたりした。


 やがて、東の空がしらじらと明けてきた。

「あーあ、高恥研の秘密活動もこれまで、か」

 ボヤく永井。

「問題ないわ。むしろここまで表沙汰おもてざたにならなかったのが奇跡なくらいよ。

 後は、出たとこ勝負ね」

 ひとりだけ徹夜の美和は、まだまだ元気そうだった。


 ――――待機に入って二〇時間超、日も傾くころ。


 第三のロボットが現れた。





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