忸怩! 明かされた敵の正体!(5)

 四方据よもすえ社長の報告が済んだ後、美和は冬羽とわも退席させ、一拓いったくと差し向かいになった。


「あらためて、娘がお世話になります」

 立ち上がると、やはり母娘だけあって背が高い。

 胸のほうも冬羽とわと同じくらい。ただし、パッド装着時の、である。

 いけませんよ? 子持ちの人妻です。


「いえ、そんな……こちらこそお世話に」

 なにせ上司の親。こういう形であいさつされると、いっそう緊張する。

融通ゆうづうの利かない子でしょう?」

「や、そんなことは……部長はいい上司だと思います」

 心にもないことをいったら注意された。

「役職名禁止よ。今後は名前で呼びなさい」





「さて、と」

 堅苦しいあいさつを済ませると、美和はくだけた雰囲気で腰を下ろし、一拓いったくにも着席をうながした。


「どうせあの子のことだから、ロクな説明もしていないんでしょ?」

「はぁ、まぁ」

「【ゴダイヴァ】に乗ってもらってる以上、あなたにも伝えておいたほうがいいと思うわ」

 と前置きして、美和は話し始めた。


「……テーマパークが、法的な問題をクリアできなくて流れた件は聞いたわね?」

「えっ? お金がかかりすぎたからじゃないんですか?」

「それもあるけど、【ゴダイヴァ】は大きすぎて乗り物としての認可が下りなかったのよ。転倒の危険があるから建築基準法にも引っかかるし」


 ちなみに、遊園地に関しては興行場法に定めがある。乗り物は国土交通省の管轄かんかつ

 くだんの横浜ガンダムが、建築基準法における「高さ四メートルを超える工作物」(イメージとしては看板や広告塔)に当たることは、ご存じの読者もいらっしゃるだろう。


「まあ、借金ができたことには変わりないけどね。

 テーマパークはダメになったけど、私も新しく事業を立ち上げたし、業ヶ崎ごうがさきにも運よくお声がかかって、海外の研究機関に籍を置くことになったわ。


 ――――ところがね。

 せっかくうまく回り始めたのに、三年前、業ヶ崎ごうがさきが突然失踪したの」





「失踪、ですか?」

「ええ。勤め先にも顔を出さなくなって、住んでた借家も引き払っていたわ。

 こないだ新しい情報が入ったんで、確認しにいってたの。残念ながらハズレ」

 海外出張の理由はそれだったようだ。


「……ずっと音信不通だったんだけど、半年前にこのメールが業ヶ崎ごうがさきのアドレスから届いたのよ」

 といって、美和は机の上のノートPCを見せた。


 メールは、こんな文面だった――――。





 わが妻、美和。そして娘、冬羽よ。

 私は、人類を遥かに超越する叡智に触れた。

 果たしてそれは神なのか? 神の名に値する存在なのか?

 人類はそれを確かめねばならない。その叡智を手にするためでなく、その者たちと対話するために。


 ゆえに、私は四体のロボットを使いに送ろう。黙示録の四騎士になぞらえて。

 切に望む。是非、ゴダイヴァの手で迎えてくれたまえ。そして、くれぐれも野暮な邪魔が入らぬように。


 争闘の果てに、勝者がつかむものは何か?

 楽しみにしているよ。





「……どう?」

 どう、といわれても。

「えーっと、はい。えー…………。

 ……文学的……みたいな……?」

 一拓いったくは汗をかきながら返答をひねり出した。


「わけわかんないでしょう。こんな文章、業ヶ崎ごうがさきに書けるわけないのよ」

「そう……なんです?」

「でも、こんなことをやりそうな人って業ヶ崎ごうがさきくらいしか思いつかないのよね」

「そう……なんですね」


「……向こうで変な新興宗教にハマって、洗脳でもされたんじゃないかと思うのよ。というか、ほかに考えられないわ」

 美和もお手上げという表情だった。


「スマホのGPSで居場所を調べたりできませんか?」

 一拓いったくがたずねたら、

「長いこと電源が入ってないみたい。

 もちろん外務省に所在調査も依頼したわ。国際探偵協会に所属する探偵社にも。でもまだ見つかっていない」

 と、手は尽くしたらしい。


 ちなみに、追伸はこんな塩梅あんばいだ。





p.s.

 訪問は水曜日になると思います。場所は無二江湾で。たしか、まだあのあたりに保管してるよね? 諸々の段取りはお任せします。いつも無理ばっかいって悪いね。


p.p.s.

 電力不足だと思うので、別で発電機も送ります。ちょっと大きいけど受け取り拒否しないでね。

 感情に反応しますが、恥がいちばん効率的なので、乗るときは恥ずかしい気持ちになることをお勧めします。ゴダイヴァの空きスペースに取りつけて使ってください。 


 愛してるよ。よろしくお願いします。





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