屈従! 第二の刺客、襲来!(1)

「【ゴダイヴァ】は自分と同サイズの人型――――つまり【敵】ロボットを確認したら、接近して格闘戦へ持ち込むように設定されている。

 だから、ほかの行動をする場合には手動操作が必要なんだ。それを一拓いったくくんにも覚えてもらおうというわけ」


「実際に現場で操作をするのは私だ。しかし部下であるキミも、私がしていることを理解しておくに越したことはないだろう」

「万一の場合、冬羽とわさんのバックアップもできたほうがいいですからね」


 永井がノートPCでアプリを起動すると、画面全体が操作盤表示に変わった。

「選択肢が表示されるから、順々にクリックしていけばいい。現物を操作するときにはパネルをタッチして」


 冬羽とわは、

「お手数をおかけしますが、後はよろしくお願いします」

 と頭を下げて、部屋を出ていった。


「最初はいちばん簡単な『歩行』から始めようか」

 画面が地形図に切り替わった。等高線や等深線に【ゴダイヴァ】、敵、そして高恥研を示すアイコンが乗っかっている。

 後は目標をセンターに入れてスイッチ……ではなく移動先をクリック。

「はい」を選べば完了。

 操縦桿レバーを引いたりペダルを踏んだりすることもない。


「地図はわかりにくいから気をつけて。間違えると障害物にぶつかったり、逃げるつもりで敵に突っ込んだりするから」

 そういって、永井も自分の作業に戻った。





 チュートリアルに指示されるまま、選択肢から選んでいくだけの簡単なお仕事。

 たまに聞こえてくるのは、永井と横山の雑談。どうやら格闘技に関する内容らしいのだが、全然わからない。

 単純作業のくり返しとアルファ波の出そうなBGM。ノルマもペナルティもない。

 これでおちんぎんがいただけるとは天国のようだ。

 うとうとしかかったときに、永井の「もうこんな時間か」という声で目が覚めた。





 昼食の席は、冬羽とわも呼んで四人で囲んだ。


「多めに作ってきました。冬羽とわさんと一拓いったくさんもどうぞ」

 横山が広げた三人ぶんの弁当に、冬羽とわ怪訝けげんな顔。

「なぜ私が昼食を用意していないことがわかったんですか」

「こんなこともあろうかと、ってやつです」


 永井はコンビニ弁当だった。このふたり、別につき合っているわけではないのか。





 食後。

「あまり研究開発部にご厄介ばかりかけるのも申し訳ない。そこで、これを用意した」

 冬羽とわと一緒に事務室へ戻ると、机の上に積まれた本の山が一拓いったくを待っていた。

 どれもこれも参考書や問題集らしい。


宅建たっけん……?」

 背表紙を見て首をひねる一拓いったくに、冬羽とわがいった。

宅地建物取引士たくちたてものとりひきしの資格試験勉強用だ」

 それはわかる。

「宅建は国家資格だ。不動産取引に必須だから、取得者も多い。使える割に医師国家試験や司法試験などよりよほど簡単だぞ」

 いやそれはわかるって。


「……ハイシャイ・ラボウチの出資元は不動産会社だからな。キミも宅建の資格くらい取っておけ。ゆくゆくは必ず役に立つ」

 飲み込みの悪いやつだな、といわんばかりの口ぶりに、一拓いったくはあきらめて本を手に取った。





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